5 もう一つの可能性。 それは―……。 「ハル、この後はどうするんだ?」 ハスキーな声が耳に入って停滞する。 そのままぐるぐると体の中に溜まっていく。 ハル、って呼んでるんだ。 じゃあ、相当仲いいんだろうか。 時折ずずずっと音が聞こえて、見えている目の前の男は麺を吸っていないのがわかるから、それが彼の出している音じゃないことがわかる。 俺の記憶が正しければ、ここには早川さんの好きな人と一緒に来るんじゃないだろうか。 ほら、ここに俺と来た時に聞いた。 いや、あの時は別にうんとは言ってなかった。 ……だけど、あの反応。 違うとは思えなかった。 大抵早川さんはわかりやすいから、俺が間違っているとは思えない。 だけど、早川さんと一緒にいるのは……男。 ただし、早川さんの好きな、好きすぎるバンドの一番好きなヴォーカリスト。 そうとは決まってない、だけど俺の胸は嫌な予感を察知して変な音を立てていた。 いやまさか、まさか。 彼が、早川さんの好きな風俗嬢、なんて、そんなこと。 「隼也様?」 控えめに声をかけてきた千尋が、俺の手をつつく。 俺の手は小刻みに震えていた。 「千尋、悪い」 「え?」 「少し席を変わってくれないか」 「席を、変わる?」 「少しでいい。」 俺が立ち上がれば、千尋が立ち上がる。 そして俺は、千尋が座っていた方に腰掛けた。 心臓が大きく音を立てていた。 そして、ゆっくりと隣を覗く。 「俺の家に、来ますか?」 格子越しに見えた男は、やはり間違えることのない、俺が予想していた人物だった。 聞き取った声はやわらかく、だけどどこか緊張している声。 そして向ける目線は射抜くようで、包み込むよう。 俺でない彼に注がれる視線は、どれも俺には突き刺さるように痛い気がした。 まるで、ナイフをざっくりと差し込まれているよう。 あぁ、どうやらそのまさからしい。 未だかつていだいたことのない感情が、俺を包み込んでいく。 俺は、見たことのない表情を浮かべる早川さんに、落胆とも驚きとも言えない、言い表し様のない感情を抱いていた。 |