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もう一つの可能性。
それは―……。


「ハル、この後はどうするんだ?」


ハスキーな声が耳に入って停滞する。
そのままぐるぐると体の中に溜まっていく。

ハル、って呼んでるんだ。
じゃあ、相当仲いいんだろうか。

時折ずずずっと音が聞こえて、見えている目の前の男は麺を吸っていないのがわかるから、それが彼の出している音じゃないことがわかる。


俺の記憶が正しければ、ここには早川さんの好きな人と一緒に来るんじゃないだろうか。

ほら、ここに俺と来た時に聞いた。

いや、あの時は別にうんとは言ってなかった。

……だけど、あの反応。
違うとは思えなかった。

大抵早川さんはわかりやすいから、俺が間違っているとは思えない。

だけど、早川さんと一緒にいるのは……男。

ただし、早川さんの好きな、好きすぎるバンドの一番好きなヴォーカリスト。


そうとは決まってない、だけど俺の胸は嫌な予感を察知して変な音を立てていた。

いやまさか、まさか。


彼が、早川さんの好きな風俗嬢、なんて、そんなこと。


「隼也様?」


控えめに声をかけてきた千尋が、俺の手をつつく。
俺の手は小刻みに震えていた。


「千尋、悪い」

「え?」

「少し席を変わってくれないか」

「席を、変わる?」

「少しでいい。」


俺が立ち上がれば、千尋が立ち上がる。
そして俺は、千尋が座っていた方に腰掛けた。

心臓が大きく音を立てていた。

そして、ゆっくりと隣を覗く。


「俺の家に、来ますか?」


格子越しに見えた男は、やはり間違えることのない、俺が予想していた人物だった。

聞き取った声はやわらかく、だけどどこか緊張している声。
そして向ける目線は射抜くようで、包み込むよう。
俺でない彼に注がれる視線は、どれも俺には突き刺さるように痛い気がした。
まるで、ナイフをざっくりと差し込まれているよう。


あぁ、どうやらそのまさからしい。


未だかつていだいたことのない感情が、俺を包み込んでいく。
俺は、見たことのない表情を浮かべる早川さんに、落胆とも驚きとも言えない、言い表し様のない感情を抱いていた。