3 「隼也様」 「しっ!!」 何があったのだろうと不思議な顔をする千尋に向かって俺は人差し指を立てて唇に当てた。 すると千尋は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした後、少し眉を下げて俺を見た。 そんな千尋から俺は目を離して、声のする方へ顔を動かす。 「ちょ、付けすぎですって」 「うるせぇ、どんだけつけようと俺の勝手だろ?」 「も、もぉ……体に悪いですよ」 敬語。 敬語だ。 俺はそっと隙間から隣を覗いてみる。 俺はもう、この声があの人だと確信していた。 他の人だと思ってなかった。 じい、と目を凝らせば見える金髪。 箸で餃子を掴み、それから口の中に放り込んでいくその口から見える顔。 ……――あれは。 「shino……?」 見える金髪にここからでもわかる長いまつげ。 切れ長の目に……ラフなワイシャツ。 少しぶかぶかだと感じるのは気のせいか。 でもあれは、わかる。 BLUEBUSTERの、shinoだ。 早川さんが好きだから何曲も聞いたし、ポスターも何度も見た。 ライブ映像も見た。 あれが、あれが。 早川さんの、憧れの……ヒト。 俺は思わず顔を近づけてよく見ようとしてしまう。 特別感はあまり感じないけど、あの人が。 ……待てよ? 一緒にいるのは早川さんでしょ……? shinoが、へにゃりと笑った。 その表情に、吐き気がした。 理由はわからない。 けれど、かつてないほどに胸が気持ち悪い。 例えるなら、墨でもぶちまけられたように黒いものが広がって、どうしようもなく息苦しくなるみたいに。 する、と何者かわからない手がshinoの頬を撫でた。 |