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タクシーに乗ってそのラーメン屋さんへ。
俺は前行ったラーメン屋のしっかりと名前を覚えていたので、千尋を隣に座らせてから窓を眺める。
帰るときここ通ったな、なんて考えながら見ていれば退屈はしなかった。


「お客さん若いですね」

「あ、あぁ。」

「家はここら辺なんですか?」

「はぁ、まぁ。」


自家用の車を出せばいいのだけど、千尋が窮屈そうだから家から少し離れたところまで歩いてそこからタクシーに乗った。
だから、このタクシーの運転手は俺が誰だかを知らない。


「若いのにお2人でラーメン?サラリーマンみたいだねえ。」

「あはは、急に食べたくなっちゃって。」

「へぇ。近頃の子はお小遣いが多いのかな。タクシーだなんて」

「バイト代でせっせとやりくりしてるんすよ。」


嘘も方便。いやいや、あながち嘘でもない。
俺はバイトしてるし。
疑わしい目線を送ってくる千尋に、何食わぬ顔をして運転手さんの話に返答する。

だんだんラーメン屋に近くなってくる。
あ、と思いながら俺はタクシーの運転手さんと話し続ける。
俺はタクシーの運転手のおじちゃんと他愛もないことを話すこの時間がさりげなく好きだったりする。


全く知らない世界に生きている人は、いつも自分の知らないことを教えてくれる。
だから好きだ。


「ここかな?」

「あぁ、そうっす。ありがとうございます。」


俺はカードを渡そうとして、すんでで下ろしていた現金を手渡した。
こういう時カードを渡したら怪しまれるのだ。
うちのカードは普通のじゃないし。
それはもう経験済み。

俺は支払いを終えたタクシーから降りると、そのラーメン屋を見渡した。
そのラーメン屋の前には数台の車が停まっている。

その中に一つ、なにか見覚えのあるようなないような、そんな車を見つける。
どこかで見たことあるような。

……。


「隼也様?」


けれど俺はそれが何のせいで自分の記憶に引っかかっているのかわからなくて、頭を傾げる。
しかも、千尋が少し不安そうに声をかけてきたのもあって、俺はその思考をやめざるを負えなかった。


「なんでもないよ。入ろうか」


なんだっけ?
なんか妙に引っかかる。

俺は一度しか見たことない暖簾を押しのけながら、店内に足を踏み入れた。