9 そしてすべてを話し終わった時、千尋はひとつ「うぅん」と唸るような声を出した。 「千尋?」 顎に手を当てたまま何もしゃべらない千尋。 それをみて、はっとする。 俺は当たり前のようにあの人のことが好きだと言ったけれど、オレも彼も男だ。 うっかりしていた。 千尋にとってそれは当たり前ではなかったのかもしれない。 というか、普通はそんなの当たり前じゃない。 「あ、あの、引いた?おかしいよね。男が男を好きになるなんて」 人を好きになるのが初めてだから、そこになんの疑問も抱いてなかった。 俺は慌ててなにかフォローを、と慌てて言葉をつなぐ。 引かれた?だろうか。 普通に考えたらこれはきっとおかしいことだ。 千尋もそれに混乱しているのかもしれない。 「え?あ?!え?!」 「引いただろ」 「えっ、ちがいます!どうして!」 それなのに千尋は、目をぱちくりとさせる。 本当にどうして?と言いたげなその目に、俺の見当違いだったのだとわかる。 ……たしかに、千尋はそんなこと気にしそうなタイプじゃないかもしれないな……。 ほんの少しだけ、胸をなでおろした俺は「なんでもないよ。」とだけ付け加えておいた。 すると千尋は俺を見て、少しだけ哀れむようなそんな瞳をして「はぁ」と雑に息を吐いた。 「千尋?」 「難しい問題ですね。私は隼也様に幸せになって欲しいと思います。苦労が多い人生を歩んでこられてるわけですし、心の支えとなっている遥幸様とぜひ結ばれれば、そう思いますけど……。慕っていらっしゃる方がいるんでしょう……」 そこまで言って、千尋は少し思い出したような顔をして、目線をさ迷わせた。 「まして……隼也様は男……なんですもんね……。」 「そうだよ。」 言いづらそうにするのを見て、今その事に気づいたのだと俺も気づく。 当たり前のように話していてその事実が抜け落ちて気付けなかったのだろう。 「せっかく心の拠り所だったのに、……今は隼也様の心を荒ませる原因になっている……。」 ううん、と首をひねり、真剣に悩む千尋。 俺のために真剣に悩んでくれている、そうわかった俺は、その姿を見だけで千尋に話す前よりは元気になってきていた。 |