8 「嫌がらせ……遥幸様と何かあったのですか?」 「……なにか、なにか……あった……ね。」 千尋が脇に立って、声を窄ませる。 「聞いてはいけないことですか?」 「別にいけないことではないよ。でもきっと、聞いたってどうしようもない話だよ。」 「そんな、話すだけでも……楽になることってあります。私に話して少しでも気が休まるなら、どうぞ話してください。口外は決してしませんから。」 「あはは、言いふらすような子じゃないでしょ、千尋は。」 千尋を見たら、千尋の目は俺を射抜いていた。 俺の初めてついた執事。 たぶん、千尋がこの仕事をやめるまできっと千尋は俺の執事なんだろう。 「……言いふらしません。」 「うん、うん……そうだね。言ったら……楽になるのかなぁ」 胸をぐるぐると回る、つっかえ。 これは誰かに話すことで楽になるものなんだろうか。 俺は空になったグラスを見つめた。 「話したくなければいいのです。でも、隼也様私を友達にしたいと仰ってくださったでしょう。友達だったら……愚痴でも何でも聞くものなんですよ」 「君がそれを言う?友達になんかなれないっていつもいうくせにさ。」 初めてあった日からほぼ毎日、俺は千尋に友達になってくれと言っている。 千尋は俺よりも年下だけど、年が近いし……何より俺が堅苦しいのが苦手だから。 でも、そう言っておきながら俺は友達というのがよくわかってない。 たまに一緒に飲みに行く人たちの話を聞いて、その存在がいいなぁと思って、欲しいと言ってみただけだ。 「それは……主従関係がありますから……でも、隼也様がそう思う分には関係ありません。」 「うん、うん……そっかぁ……」 うまく言いくるめられた気がするけど、俺は頭の中で話す内容を整理し始めていた。 そして俺は、そのまま知らず知らずのうちにポツポツと話し始めた。 |