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「嫌がらせ……遥幸様と何かあったのですか?」

「……なにか、なにか……あった……ね。」


千尋が脇に立って、声を窄ませる。


「聞いてはいけないことですか?」

「別にいけないことではないよ。でもきっと、聞いたってどうしようもない話だよ。」

「そんな、話すだけでも……楽になることってあります。私に話して少しでも気が休まるなら、どうぞ話してください。口外は決してしませんから。」

「あはは、言いふらすような子じゃないでしょ、千尋は。」


千尋を見たら、千尋の目は俺を射抜いていた。
俺の初めてついた執事。
たぶん、千尋がこの仕事をやめるまできっと千尋は俺の執事なんだろう。


「……言いふらしません。」

「うん、うん……そうだね。言ったら……楽になるのかなぁ」


胸をぐるぐると回る、つっかえ。
これは誰かに話すことで楽になるものなんだろうか。
俺は空になったグラスを見つめた。


「話したくなければいいのです。でも、隼也様私を友達にしたいと仰ってくださったでしょう。友達だったら……愚痴でも何でも聞くものなんですよ」

「君がそれを言う?友達になんかなれないっていつもいうくせにさ。」


初めてあった日からほぼ毎日、俺は千尋に友達になってくれと言っている。
千尋は俺よりも年下だけど、年が近いし……何より俺が堅苦しいのが苦手だから。
でも、そう言っておきながら俺は友達というのがよくわかってない。
たまに一緒に飲みに行く人たちの話を聞いて、その存在がいいなぁと思って、欲しいと言ってみただけだ。


「それは……主従関係がありますから……でも、隼也様がそう思う分には関係ありません。」

「うん、うん……そっかぁ……」


うまく言いくるめられた気がするけど、俺は頭の中で話す内容を整理し始めていた。
そして俺は、そのまま知らず知らずのうちにポツポツと話し始めた。