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どうしてこんなにも見ているのに、見てくれないんだろう。
どうしてこんなにも好きなのに、あの人は俺のことを好きになってくれないんだろう。

わりと強靭なメンタルを持っているつもりだけど、早川さんにされる無視はなかなかメンタルにくるものだった。

早川さんは、無視はしない人だと思ってたのになぁ。
俺はそんなにもあの人を怒らせてしまったんだろうか。

だけど、だけど。
だって、仕方ないじゃん。

好きな人が風俗嬢にたぶらかされてるの見て、「叶うといいですね」なんて俺は笑っていられない。

確かに、風俗嬢をやめて俺にしろって言うのも、体裁的に良くないし、むしろ風俗嬢が女なだけいいのかもしれない。
ほら、人間って本来女と男で恋ってするもんだし。

だけどさ、だけどさぁ。
せめて普通の女の人なら、俺も素直に応援できたのに。

悩みに悩みすぎて食欲が湧かないし、前までは何されても笑い飛ばせてたけど、今はできない。

俺相当弱ってる。
部屋開けてベッドに横になろ。
風呂は後でもいいや。
明日は休日だし、むしろ起きてからに入っても。


いつもはすぐにドアを開けてくれる千尋が開けてくれない。
あれ?とおもって思わず千尋を見る。

脇に立っていた千尋は、俺を見つめていた。


「なに?千尋。」

「ダメです。食べてください」

「え?」

「昨日だってそうやって、隼也様お夕食軽めに取られていたじゃないですか。朝食だってお食べにならないし。」

「……」


千尋が俺を見つめて、不満気な声を出す。
その声は、俺が千尋にいたずらをした時にしか聞こえないような声。


「食欲がないのはわかりますが、食欲が無くても食べられるものを用意しますから。」


くりくりの黒い目が、俺を捉えた。
きゅうっと鞄を掴む仕草に、思わず肩の力が緩んだ気がした。