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「おかえりなさいませ、隼也様」

「ただいま。」


やっと屋敷の玄関にたどり着いた頃には、あたりは真っ暗だった。
これから出かけようという気も起きない。
玄関で忠犬よろしく待っていた千尋に、俺は荷物を押し付けた。
荷物、と言ってもとても軽い鞄。
千尋はそれを嫌な顔一つせず簡単に受け取ると、両手でそれを持った。


「隼也様。夕食になさいますか?それとも先に汗を流してこられますか?」

「汗なんかかいてないよ。それにお腹もすいてない。」

「お夕食は要らないと?」


おかえりなさいませ。とすれ違った使用人達が声を掛けてくれる。
俺はそれに返事を一応はするけれど、ニコニコといつものように笑う元気はない。
最近ずっとこうな気がする。


「うん、要らない」


原因はもちろんたった1人。
小早川遥幸。
義姉の弟さん。
それでもって、一応上司に当たるのだろうか。
センパイ。

部屋の前まで来て、はぁと息を吐く。
その中でも最も問題なのは、恋愛事情。
どうしてそんな恋愛事情なんかを自分の問題にするのかというと、俺が彼を好きだから。

あー、ほんと。
ほんとさー。
なーんで、なーんで……風俗嬢なんだよ。

風俗嬢じゃなかったら、俺だってもう少し引き際よく引けたのに。

付き合ってるのかな。
もう、恋人になってしまったのかな。

でもあの喜びようは、きっと。


俺はここ最近の早川さんを思い出して、はーーと息を吐く。

仕事の手際こそ遅いものの、どんな仕事もニニコとしながらこなしていく。
俺の雑談には、完璧にスルー。

しかも俺も、早川さんを怒らせた手前、そんなにグイグイ行くほど厚かましくない。
いや、かなり厚かましいけど。
めんどくさがりながらも返事してくれたあの人が、全く返事をしてくれないってことは、俺相当嫌がられてんだろうなって思ったり。

終わりまで一応付き合ってるのに、早川さんは最近お疲れとしかいわない。

俺残業代出ないんだよ?
って思ったりする。
それは全く関係ないけど。