2 「おかえりなさいませ、隼也様」 「ただいま。」 やっと屋敷の玄関にたどり着いた頃には、あたりは真っ暗だった。 これから出かけようという気も起きない。 玄関で忠犬よろしく待っていた千尋に、俺は荷物を押し付けた。 荷物、と言ってもとても軽い鞄。 千尋はそれを嫌な顔一つせず簡単に受け取ると、両手でそれを持った。 「隼也様。夕食になさいますか?それとも先に汗を流してこられますか?」 「汗なんかかいてないよ。それにお腹もすいてない。」 「お夕食は要らないと?」 おかえりなさいませ。とすれ違った使用人達が声を掛けてくれる。 俺はそれに返事を一応はするけれど、ニコニコといつものように笑う元気はない。 最近ずっとこうな気がする。 「うん、要らない」 原因はもちろんたった1人。 小早川遥幸。 義姉の弟さん。 それでもって、一応上司に当たるのだろうか。 センパイ。 部屋の前まで来て、はぁと息を吐く。 その中でも最も問題なのは、恋愛事情。 どうしてそんな恋愛事情なんかを自分の問題にするのかというと、俺が彼を好きだから。 あー、ほんと。 ほんとさー。 なーんで、なーんで……風俗嬢なんだよ。 風俗嬢じゃなかったら、俺だってもう少し引き際よく引けたのに。 付き合ってるのかな。 もう、恋人になってしまったのかな。 でもあの喜びようは、きっと。 俺はここ最近の早川さんを思い出して、はーーと息を吐く。 仕事の手際こそ遅いものの、どんな仕事もニニコとしながらこなしていく。 俺の雑談には、完璧にスルー。 しかも俺も、早川さんを怒らせた手前、そんなにグイグイ行くほど厚かましくない。 いや、かなり厚かましいけど。 めんどくさがりながらも返事してくれたあの人が、全く返事をしてくれないってことは、俺相当嫌がられてんだろうなって思ったり。 終わりまで一応付き合ってるのに、早川さんは最近お疲れとしかいわない。 俺残業代出ないんだよ? って思ったりする。 それは全く関係ないけど。 |