1 早川さんが怒って帰って、あぁ俺またやらかしたんだなってそう思ってたけど、次の日の早川さんは驚くほど機嫌が良かった。 そして今日までの1週間、とても機嫌が良かった。 なんであの人はあんなにわかりやすいんだろう。 きっと、あの風俗嬢に会いに行ったんだろうな。 それで仲直りでもしたんだろうな。 だって早川さんここ最近ずっと機嫌悪かったし。 最近の早川さんの機嫌を左右するのはあの人しかいない。 喧嘩かなんかでもしてて、それできっと機嫌が悪くて、それで。 雨降って地固まる的な感じなのだろうか。 あのふたりには進展があるのに、俺と早川さんはというと、必要なこと以上は話さずに、たんたんと仕事をこなしているだけだった。 仕事をするのは楽しいけど、早川さんと話せないのはどうも張り合いが出ない。 イジる人がいなくなったって言うのも、まぁ、そうっちゃそうなんだけど。 俺はさりげなくあの人の好きなものとか、近況とか聞き出すのが好きだったわけで。 それが密かな楽しみだったわけで。 好きな人の恋を応援したい気持ちだってある。 だけど、実って欲しくないのも本音。 はぁ……。 今さら、嫌いになれればいいのにって思う。 だって、さいきんの早川さん全然優しくないし、話してくれないし冷たいし。 嫌いになってもおかしくないのに。 俺はこんなにも早川さんのことが好きで、いちいち行動に悩まされて、こんなにも嫉妬して。 嫌いになれたら、こんなにも早川さんのこと考えなくていいのに。 好きなようにしろって思えるのに。 早川さんのことで一喜一憂するなんてこと、しなくていいのに。 「おつかれ、鍵頼んだ」 今日も俺の手に鍵を乗せた早川さんは、俺に軽く手を振るとそのままオフィスを後にしてしまった。 時刻は午後7時。 とても憂鬱だ。 |