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早川さんが怒って帰って、あぁ俺またやらかしたんだなってそう思ってたけど、次の日の早川さんは驚くほど機嫌が良かった。

そして今日までの1週間、とても機嫌が良かった。


なんであの人はあんなにわかりやすいんだろう。

きっと、あの風俗嬢に会いに行ったんだろうな。
それで仲直りでもしたんだろうな。
だって早川さんここ最近ずっと機嫌悪かったし。
最近の早川さんの機嫌を左右するのはあの人しかいない。

喧嘩かなんかでもしてて、それできっと機嫌が悪くて、それで。

雨降って地固まる的な感じなのだろうか。


あのふたりには進展があるのに、俺と早川さんはというと、必要なこと以上は話さずに、たんたんと仕事をこなしているだけだった。
仕事をするのは楽しいけど、早川さんと話せないのはどうも張り合いが出ない。

イジる人がいなくなったって言うのも、まぁ、そうっちゃそうなんだけど。
俺はさりげなくあの人の好きなものとか、近況とか聞き出すのが好きだったわけで。
それが密かな楽しみだったわけで。

好きな人の恋を応援したい気持ちだってある。
だけど、実って欲しくないのも本音。

はぁ……。

今さら、嫌いになれればいいのにって思う。
だって、さいきんの早川さん全然優しくないし、話してくれないし冷たいし。

嫌いになってもおかしくないのに。
俺はこんなにも早川さんのことが好きで、いちいち行動に悩まされて、こんなにも嫉妬して。

嫌いになれたら、こんなにも早川さんのこと考えなくていいのに。
好きなようにしろって思えるのに。


早川さんのことで一喜一憂するなんてこと、しなくていいのに。


「おつかれ、鍵頼んだ」



今日も俺の手に鍵を乗せた早川さんは、俺に軽く手を振るとそのままオフィスを後にしてしまった。


時刻は午後7時。


とても憂鬱だ。