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持ってきてもらったモスコミュールを、ちびちびと飲み進めていたら、手城さんが俺を呼びに来た。


「すみません大変ながらくお待ちさせてしまって、案内しますね。」


時計を見ながら手城さんが、ボードにまた何か書いている。
まだ残っているそれを煽ると、少しだけ体がふわっとした。
俺が立ち上がると、手城さんは奥の方に歩いていく。


「いえ、全然」

「今日はコースのご希望などありますか?」

「あー……全然」

「そうですか。この後予約は入っていないのですが、飛び入りで誰かいらっしゃった場合はそこでお声かけさせていただくかもしれません。そこはご了承願います。」

「全然いいですよ。構わないでください。」


いつもはこの人じゃないボーイさんに案内してもらうから、新鮮だ。
俺はそのまま、久しぶりの廊下を歩きながら志乃さんの部屋を目指す。

どき、どき、と心臓が鳴る。
今更何を怖気づいているんだと思うけど、今すごく帰りたい気分に襲われていた。

酔っているって言っても、全然ほろ酔いで理性はしっかりある。
何もかもはっきりとわかる。
どうせなら、どっかのバーにでも入って飲んでくればよかった。


「こちらです」


手城さんが、コンコンっとドアをノックした。

うわ、叩くのか。
そう思っていたら、小さく中から声がする。


「あーーい」


その声は明らかに志乃さんのもので、俺の手は小刻みに震え出す。

このドア、一枚隔てたとこに志乃さんがいる。
志乃さんが。


「どうぞ」


小さい声で言われて、手城さんをみたら手城さんはお辞儀をして来たところを戻っていく。

会って、大丈夫かな。
でも、会いたい。

会いたい。

志乃さん。


俺はそのドアを開けて、そのまま足を踏み入れた。