3 「いらっしゃいま……あ。」 中に入ればボーイの男がこっちを見て、「あ」という顔をした。 そしてニコッと微笑むと、手を差し出してどうぞ、と言った。 よく分かるなぁ、しばらく来てなかったのに。 そうおもったけど、案外当たり前にわかってしまうのかもしれない。 初めて上司に連れてこられた時に言われた「穴場」という発言。 そう、知る人ぞ知る場所だから、来る客も限定されてるんだろう。 「都志乃ですね……えっと……あぁすいません。先客が」 「先客?」 「予約のお客様が。あと数分なのでそこでお待ちください。すぐに支度をするよう言っておきます。」 ボーイがなにやら表をチェックしながら、無線で指示を飛ばす。 そうか、そうだよな。 志乃さんの客は俺だけじゃないんだから……。 だけど、俺の前で見せるあの姿を志乃さんは他の男にも晒している。 あの姿は消して俺だけのものではない。 そう、ありありと感じさせられたみたいで、どうしようもなく気分が悪くなった。 ぐるぐると体の中で渦めくこの黒い感情はきっと、嫉妬というやつだ。 ボーイの胸には「手城」と名札がある。 この人が志乃さんがたまに口にする人の名前か。 「あの、手城さん」 「あっ、あ、え?」 いきなり名前を呼ばれたことにびっくりしたのか、手城さんはビクッとすると俺を見た。 「別に急がなくてもいと伝えておいてください。準備が出来たら行きます」 「あなたはいつもお優しいですね……。都も疲れてるはずですから、喜びます。そう伝えておきますね。」 「はい。お構いなく」 「なにか飲み物飲まれますか?代金は店が持ちますのでお好きなものをお飲みになってください。」 手城さんが、細い目を細くして微笑む。 そして初めて見るメニュー表を差し出すと、無線でまた指示を飛ばした。 「急がなくてもいいとご配慮してもらったから、都さんに伝えておいてくれ」そう聞こえた。 それにしても、「いつもお優しい」とはどういうことだろうか。 |