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「いらっしゃいま……あ。」


中に入ればボーイの男がこっちを見て、「あ」という顔をした。
そしてニコッと微笑むと、手を差し出してどうぞ、と言った。

よく分かるなぁ、しばらく来てなかったのに。

そうおもったけど、案外当たり前にわかってしまうのかもしれない。
初めて上司に連れてこられた時に言われた「穴場」という発言。
そう、知る人ぞ知る場所だから、来る客も限定されてるんだろう。


「都志乃ですね……えっと……あぁすいません。先客が」

「先客?」

「予約のお客様が。あと数分なのでそこでお待ちください。すぐに支度をするよう言っておきます。」


ボーイがなにやら表をチェックしながら、無線で指示を飛ばす。

そうか、そうだよな。
志乃さんの客は俺だけじゃないんだから……。

だけど、俺の前で見せるあの姿を志乃さんは他の男にも晒している。
あの姿は消して俺だけのものではない。
そう、ありありと感じさせられたみたいで、どうしようもなく気分が悪くなった。

ぐるぐると体の中で渦めくこの黒い感情はきっと、嫉妬というやつだ。


ボーイの胸には「手城」と名札がある。
この人が志乃さんがたまに口にする人の名前か。


「あの、手城さん」

「あっ、あ、え?」


いきなり名前を呼ばれたことにびっくりしたのか、手城さんはビクッとすると俺を見た。


「別に急がなくてもいと伝えておいてください。準備が出来たら行きます」

「あなたはいつもお優しいですね……。都も疲れてるはずですから、喜びます。そう伝えておきますね。」

「はい。お構いなく」

「なにか飲み物飲まれますか?代金は店が持ちますのでお好きなものをお飲みになってください。」


手城さんが、細い目を細くして微笑む。
そして初めて見るメニュー表を差し出すと、無線でまた指示を飛ばした。
「急がなくてもいいとご配慮してもらったから、都さんに伝えておいてくれ」そう聞こえた。


それにしても、「いつもお優しい」とはどういうことだろうか。