4 「あれ?早川さん?」 固まった俺を不思議に思ったのか、隼也が近づいてくる。 けれど俺にはそんなことあまり関係なかった。 志乃さん。 仕事をしている時は、忙しかったりしてあまり表立って思い出さなかったこと。 思い出してしまって、隼也どころではなくなってしまった。 思わずはぁ……とため息が出る。 もう会わずにしばらくだ。 俺があのときあんなこと言わなかったら、こうやって思い出して、すぐに会いに行けたのに。 気兼ねなんかしなかったのに。 「早川さん?どうしました?」 隼也が、俺の近くに寄ってくる。 そして俺の肩に手を置くと、俺の顔を覗き込んできた。 思わずその顔をぼおっと眺める。 綺麗な顔だと思う。 目もぱっちり、鼻筋も通ってて、唇は少し厚めだけど、それもまた浮くこともなく控えめに主張して。 それを見ながら、志乃さんの顔を思い出した。 切れ長の目。 その目の縁を囲む、黒の長いまつげ。 形の整った鼻の先はツンっと尖ってて、唇は隼也と違って薄かった。 血色の悪い唇。 「飯はまた今度にしよう」 俺は隼也から目を離した。 気分が悪くなりそうだ。 隼也が少し遅れて、「えぇ?」と言った。 しかし、隼也はそれきり特に何か言うことはなかった。 俺はそのまま部屋を締めると、隼也と別れていつも通り電車で帰宅した。 珍しく隼也がぐずらなかったことに気づいたのは電車の中だった。 |