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「あれ?早川さん?」


固まった俺を不思議に思ったのか、隼也が近づいてくる。
けれど俺にはそんなことあまり関係なかった。

志乃さん。

仕事をしている時は、忙しかったりしてあまり表立って思い出さなかったこと。

思い出してしまって、隼也どころではなくなってしまった。

思わずはぁ……とため息が出る。

もう会わずにしばらくだ。


俺があのときあんなこと言わなかったら、こうやって思い出して、すぐに会いに行けたのに。
気兼ねなんかしなかったのに。


「早川さん?どうしました?」


隼也が、俺の近くに寄ってくる。
そして俺の肩に手を置くと、俺の顔を覗き込んできた。

思わずその顔をぼおっと眺める。

綺麗な顔だと思う。
目もぱっちり、鼻筋も通ってて、唇は少し厚めだけど、それもまた浮くこともなく控えめに主張して。

それを見ながら、志乃さんの顔を思い出した。

切れ長の目。
その目の縁を囲む、黒の長いまつげ。
形の整った鼻の先はツンっと尖ってて、唇は隼也と違って薄かった。
血色の悪い唇。


「飯はまた今度にしよう」


俺は隼也から目を離した。
気分が悪くなりそうだ。

隼也が少し遅れて、「えぇ?」と言った。

しかし、隼也はそれきり特に何か言うことはなかった。


俺はそのまま部屋を締めると、隼也と別れていつも通り電車で帰宅した。

珍しく隼也がぐずらなかったことに気づいたのは電車の中だった。