3 しばらくそのメールを見ながら悩んだ挙句、俺は何も返信しなかった。 あんなことを言った手前、普通にメールを返すのにも気が引けた。 それに、今更なんと言っていいのかもよくわからなかった。 あんなことを言って突き放しておいて、「取りに行く」とか、「持ってこい」なんて言えない。 別にあの服は捨ててもいいものだが。 その服を口実に会うことを、今はまだする勇気が出ない。 あいつは俺に呆れただろうか。 そもそもあいつは、俺についてどう思っているのだろう。 自分が尊敬していたバンドのメンバーが、バンド解散後擬似風俗店に務めていて、なすがままに体を暴かせる男に成り下がっていて。 軽蔑した? 引いた? あいつは、俺のことを好きだというけれど、正直、本当は俺を見下しているんじゃないだろうか。 かわいそうなやつだと。 大量に家に置いている俺たちのCDを見て、嘲笑ってるんじゃないだろうか。 マイナス思考ばかりが頭を駆け巡る。 昔はもっと物事をプラスに考えられていた気がするのだが、最近は自分でもびっくりする程にマイナス思考だ。 あいつはもう、俺を嫌いになってしまっただろうか。 あいつはもう、俺に会いに来てはくれないのだろうか。 シンデレラ気取りのヒステリック売男。 とでも思われただろうか。 けれど俺はそう考える反面、車を出る間際に、あいつが俺の名前を必死に呼んでいたのを思い出していた。 あいつはそんなこと思って無いだろうか? あんな客の一人ぐらい。 そう思ってしまえばいい。 そうは分かっているのだが、俺はこのメールをなかなか削除できないようだった。 何度も「削除しますか?」のプルダウンメニューをみて、戻るボタンを押していた。 |