1 残念そうな顔をする隼也に見送られて、俺は屋敷の外まで長い廊下を歩く。 「あら、ハルくん帰るの?!」 すると途中、姉さんとすれ違ってびっくりしたような顔をされる。 泊まると思っていたのだろうか。 「……帰るよ。明日も仕事だしね」 「そう……泊まっていけばいいのに……」 「あはは、そんな烏滸がましいことできないよ」 「ゲストルームも余るほどあるのよ?ここにいても何一つ不自由しないのに。しかももう夜遅いわ。」 何一つ不自由しないことはない。 思い通りに動けないのは俺にとって一番不自由だ。 そうやって考えて、俺は一人暮らしでよかったなんて思う。 実家も実家でいいところはあるけど。 姉さんはもうここが慣れてるみたいだから、なんとも感じないんだろうな。 ていうか、ちゃんとここに馴染める姉さんがすごいと思う。 同じ血が通ってるとは思えない。 「また来るよ姉さん」 「今度は私がハルくんの部屋にいってもいい?」 「え、えぇ?!それは……やめよう?」 「どうしてよ〜ハルくんの一人暮らしどんな感じか見てみたいわ!」 「……普通だよ」 「普通がわからないもの」 黒髪のふわふわとした髪の毛。 ドレスを揺らしながら、姉さんが笑う。 その後ろで隼也は俺らの会話が終わるのを待っているようだった。 「美鈴」 「あ、なぁに?」 「そこに居たのか、あぁ、遥幸くん帰るのかい?」 そして途中で社長も来る。 社長は姉さんの隣に行くと、なにやら耳元で何かを喋った。 そして、姉さんがふふふっと笑う。 仲いいなぁ……。 「あ、そういえば姉さん。妊娠したんだって聞いたよ。おめでと。」 「あ、あら。知ってたの?そうなの。また産まれたら連絡するわね」 「うん。待ってるよ。じゃあそろそろ帰るね」 「残念だけど帰るなら仕方ないわ。ハルくん、おやすみ。」 「おやすみなさい。大事にしてね、体。」 玄関先まで送ってもらって、玄関を出たら俺の車が置いてあった。 俺は使用人さんたちや、姉さん社長に頭を下げて挨拶する。 「また明日な、隼也」 「おやすみなさい、遥幸さん」 そして最後に隼也に挨拶をして、俺は屋敷を出た。 |