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残念そうな顔をする隼也に見送られて、俺は屋敷の外まで長い廊下を歩く。


「あら、ハルくん帰るの?!」


すると途中、姉さんとすれ違ってびっくりしたような顔をされる。
泊まると思っていたのだろうか。


「……帰るよ。明日も仕事だしね」

「そう……泊まっていけばいいのに……」

「あはは、そんな烏滸がましいことできないよ」

「ゲストルームも余るほどあるのよ?ここにいても何一つ不自由しないのに。しかももう夜遅いわ。」


何一つ不自由しないことはない。
思い通りに動けないのは俺にとって一番不自由だ。
そうやって考えて、俺は一人暮らしでよかったなんて思う。
実家も実家でいいところはあるけど。

姉さんはもうここが慣れてるみたいだから、なんとも感じないんだろうな。

ていうか、ちゃんとここに馴染める姉さんがすごいと思う。
同じ血が通ってるとは思えない。


「また来るよ姉さん」

「今度は私がハルくんの部屋にいってもいい?」

「え、えぇ?!それは……やめよう?」

「どうしてよ〜ハルくんの一人暮らしどんな感じか見てみたいわ!」

「……普通だよ」

「普通がわからないもの」


黒髪のふわふわとした髪の毛。
ドレスを揺らしながら、姉さんが笑う。

その後ろで隼也は俺らの会話が終わるのを待っているようだった。


「美鈴」

「あ、なぁに?」

「そこに居たのか、あぁ、遥幸くん帰るのかい?」


そして途中で社長も来る。
社長は姉さんの隣に行くと、なにやら耳元で何かを喋った。
そして、姉さんがふふふっと笑う。
仲いいなぁ……。


「あ、そういえば姉さん。妊娠したんだって聞いたよ。おめでと。」

「あ、あら。知ってたの?そうなの。また産まれたら連絡するわね」

「うん。待ってるよ。じゃあそろそろ帰るね」

「残念だけど帰るなら仕方ないわ。ハルくん、おやすみ。」

「おやすみなさい。大事にしてね、体。」



玄関先まで送ってもらって、玄関を出たら俺の車が置いてあった。
俺は使用人さんたちや、姉さん社長に頭を下げて挨拶する。



「また明日な、隼也」

「おやすみなさい、遥幸さん」


そして最後に隼也に挨拶をして、俺は屋敷を出た。