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魅力を感じてその魅力を追求していけばしていくほど、ダメだと思った。

だって、シノだ。
高校時代何度も目に焼き付くほどに見た、シノ。
ライブで歌を歌っている、シノ。

そう、俺にとってこの人は、歌手でしかないんだ。

何かがゾクゾクと湧き上がると同時に、高まった何かが冷めていく。

背徳感?
じゃなくて、ちがう。
それもある気がするけど、違う。
だって、俺の知ってるシノは、かっこよくて、こんなことする人じゃない。

かっこいい、BLUEBUSTERの、shino。
堂々としてた。
デカくて綺麗な歌声はよく響いて。
自信に満ち溢れていた、shino。
自分の才能を信じていて、人に媚を売るなんて考えられなかった、あの人。

一瞬流されかけた俺の体がもう一度怖気付く。

やめるなら、いまだ。
今なら、間に合う。

俺はシノが好きだ。
でも、恋愛的な意味じゃなくて、それは尊敬で。

俺の中のシノは、歌手で、バンドマンで、けしてこんな、体を売るような仕事をするような、低俗めいたことをするような人じゃない。
カッコ悪いことをする人じゃない。

これ以上進まずに終わってしまえば、夢だったって、思えるかもしれない。
俺相当溜まってて変な夢でも見たんだって。
なんだか、嫌だ。
俺の中のシノが、壊れてく。

心臓はドクドク鳴ってる。
俺の息子も臨戦態勢。

だけど頭は割と冷静さを取り戻してて、なんとも言えないアンバランスさ。



「なんだよ、喉仏好きだろ?」

「シノ、さん。そこは歌手の命……っで、そんなこと、する場所じゃ、ない……っ、」

「あ?」


それなのにシノは俺のを持って、本格的に喉仏に擦りつけ始める。
思いっきり引き剥がせばはがせる筈なのに、体が言うことを聞いてくれない。

頭の中ではやめたいと思うのに、体がもっと感じたいと言ってるみたいに。

こんなことってあるんだ。
まるで、脳と体が繋がってないみたいだ。


「だ、か……ら。」

「うぜぇな。俺はもうshinoじゃねぇよ」


先端のくぼみに、喉仏が押し付けられて、シノが喋った時の振動がモロに伝わる。

ブルっと震えて、先走りがどろっと溢れて、体が引けた。


「シノさん、こういうこと、嫌いじゃないんですか…、こんな、女の子みたいなことするの」

「あ?女?」

「だっ、て…男同士ってそういうことでしょ?それに、格好だって、シノ、さん……こういう女っぽいの……」

「あぁあ、うぜぇ。」


っ、と思わず息を詰めた。

なんとかやめさせよう、そう思って言葉をぽつぽつと吐けば、シノが声を荒げた。

何かが逆鱗に触れたようで、さっきまで何を言ってもヘラヘラと流していたシノの顔が、変わる。

俺から少しだけ体を離して、ギロっと俺を睨みつけた。


「ブルーバスターのシノが落ちぶれて風俗嬢やってるーつっておもしろがるのは仕方ねぇよ。面白いだろうからなァ?他人の不幸は蜜の味ってか、さぞ美味しいことだろうよ。」

「っや、ちが…!」

「違わないぜ。いーんだよそれはよぉ、それが看板なんだからブルーバスターのシノしてたから客も来るんだしな。でもよぉ、できねーはねーだろ。ここがどこかわかってんのかよ」

「俺はそんなつもりで、」


シノが、俺を睨む。
唇をぎりっと噛んだせいで、そこには血が滲んだ。


「あぁ?そんなつもりじゃねぇだァ?ふざけんなこの野郎。いーぜ、女の真似事して情けないとか、はっ!! せいぜい俺のことバカにしてろ。数10分後にはそのバカにした俺に嬲られて情けなく喘いでんだからなぁ??」