4





姉さんの正面に社長が居るせいで、俺は常に社長を視界に捉えなければならない。
しかも会話をしないわけにもいかないから、結局俺は会社の話をしていた。

なんでこんな時まで仕事の話をしなければならないんだ。
そう思っていたけれど、いつでもどこでも仕事のことを考えられるから、社長を出来るのかもしれないと思った。

苦笑いしながら話を聞いていたら、その最中ずっと隼也がいつにもなく真面目な顔をしてこっちの話を聞いているのがわかった。

仕事のことに興味があるなんて、偉いななんて思う。
しかし……


「あぁ、隼也。あそこの取ってきてくれよ」


社長が部屋の隅を指さした。
隼也はそれを聞くと、少し残念そうな顔をしてこくんっと頷いた。

なんで?と思ったけど聞けない。
なんでそんな話から遠ざけようとするんだろう。


「隼也さん、とってきますよ?」

「いいよ、行くから。それとオレもうお腹いっぱい。遥幸さん帰る時になったら教えてね。お見送りしたいから」


近くの執事に言われて、首を振った隼也がそう返しているのが辛うじて聞こえた。
隼也は席を立つと、部屋の隅にあるブランケットを取りに行く。


「あの、暑いなら空調を」

「いいんだよ。こんな暑いのに君はスーツだからね。君に合わせるよ」

「あ、あぁ……」


隼也が帰ってきて、社長にブランケットを手渡すと隼也は俺の方を一度も見ずにくるりと向きを変えた。
そんなこと、社長の後ろに立っている執事にさせたらいいのに。
そう思ったけど社長の後ろに立っている執事は、隼也の食べ残しを片付けてもいいかと聞いただけだった。