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隼也がなぜ泣いたのか、俺は分からなかったし、正直動揺していた。
今日は良くないことばかりだ。
志乃さんのことはずっと気掛かりで、連絡でもしようかと思った。
だけど生憎隼也が側にいるせいで連絡できないし、連絡してもあの冷たい声で返されるのかと思うと正直怖くなってきていた。

それに、久々に姉さんに会うことにもなってしまった。
姉さんはうちの家系の中でも特別綺麗で、お淑やかで大人しいのに、愛嬌がある。
女は愛嬌とはよく言ったものだ。
身内の俺から見ても、彼女はすごく可愛かった。

結婚するなら姉さんよりもいい女の人と結婚する。
と思う程に。


「早川さん、そういえば、前はラーメンご馳走してくださってありがとうございました。」

「え?あー……あぁ。いいよそんな」

「いや、だって美味しかったので」

「美味しいってお前が教えてくれたんじゃん。」


バックミラー越しに隼也を見ると、隼也は少し気まずそうに頭を掻いていた。
そういう年相応なところはちょいちょい残ってるんだな。

軽く口角が緩んで、ふっと息が漏れる。

楢崎邸に着くまで、隼也は退屈しない程度の話をずっとしていた。
どれも相槌を打つぐらいの返事の仕方でよくて、隼也もそれほど返事を待っていないようだったから、気が楽だった。