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「タクシー?俺さっき無駄遣いするなって言ったばっかなのに」

「いやでも」

「大人のいうことは聞いたほうがいいよ。送るって言ってんだから、素直に聞いとけよ」


バックミラー越しに早川さんと目が合って、しばらく見つめられる。
その目が俺をしっかり見つめていて。
残念なことに俺は、その目にきゅんとしてしまう。


「大人って……そんな変わらないっす」

「変わるだろ……」

「兄さんより若い」

「それはお前のとこが離れすぎてるから」


あわよくば早川さん家に上がり込むという邪心に満ちた魂胆は失敗に終わりそうだ。
もしかしたら早川さんもそれに感づいてるのかも。


「でも俺早川さんのこと心配です」

「ん?」

「だってほんとに今日いつにも増して元気ないじゃないですか。」

「気にするなよ、そういうアレじゃない。」

「……アレ?嫌なことでもあったんですか?」


静寂が俺と早川さんを包む。
いつの間にかさっきまで流れていたラジオさえも切れていた。
エンジンの音と、風の音が軽く聞こえるだけで、後は何も聞こえない。


「まぁ、そう。気分的なこと。」

「なにか聞いちゃダメですか?」


帰ってきた返事には相変わらず抑揚がなくて、俺は問い掛けてしまう。
俺が聞いてはダメなことなんだろうか。
聞きたい。知りたい。
知ってどうするんだって話だけど、早川さんをそこまで落ち込ませる原因を知りたい。


「ダメ。大人にはいろいろあるんだよ」

「またそうやって俺との間に壁を作る……そんなに俺が未成年なのが気になります?」

「……まぁ、なぁ。」


突き放された感じがして、切なくなる。
まぁ、それも仕方ない、のかもしれない。