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なんで、泣いてるんだろ。
恥ずかしいな俺。

いろんな思いが綯交ぜになって、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
泣いたのなんていつぶりだろう。
ひくっとしゃくりあげるのを感じながら、俺は袖で目を擦る。


「はぁ、今日は帰ろう。俺が悪いから家まで送るよ」

「いいです」

「なんでそこで遠慮するのかなぁ」

「だって、早川さん、体調悪い」

「はぁ、なんで一回俺のこと小早川ってちゃんと呼んだくせに直すの……わけわかんない……。いいよ、そんなに悪くないから帰るよ」


早川さんが俺の手首を掴む。

あ、と思って思わずそこを見て、嬉しくなった。不謹慎だけど、泣いてよかったかもとか思って。

滲む視界で見た時計はもう5時を過ぎていて、定時で上がる人はほとんど上がりだしていた。


「小早川?いじめんなよー?」

「いじめてない!」

「絶対いじめてるだろ!隼也くん、小早川のことお兄さんに言いつけていいからな?」

「あはは、大丈夫です。」


早川さんの同僚にからかわれて、やっぱり恥ずかしくて、泣かなきゃ良かったと思った。
早川さんは、そんな俺の腕を引っ張ると、そのまま少し早足で歩き始めた。