5 なんで、泣いてるんだろ。 恥ずかしいな俺。 いろんな思いが綯交ぜになって、頭の中がぐちゃぐちゃになる。 泣いたのなんていつぶりだろう。 ひくっとしゃくりあげるのを感じながら、俺は袖で目を擦る。 「はぁ、今日は帰ろう。俺が悪いから家まで送るよ」 「いいです」 「なんでそこで遠慮するのかなぁ」 「だって、早川さん、体調悪い」 「はぁ、なんで一回俺のこと小早川ってちゃんと呼んだくせに直すの……わけわかんない……。いいよ、そんなに悪くないから帰るよ」 早川さんが俺の手首を掴む。 あ、と思って思わずそこを見て、嬉しくなった。不謹慎だけど、泣いてよかったかもとか思って。 滲む視界で見た時計はもう5時を過ぎていて、定時で上がる人はほとんど上がりだしていた。 「小早川?いじめんなよー?」 「いじめてない!」 「絶対いじめてるだろ!隼也くん、小早川のことお兄さんに言いつけていいからな?」 「あはは、大丈夫です。」 早川さんの同僚にからかわれて、やっぱり恥ずかしくて、泣かなきゃ良かったと思った。 早川さんは、そんな俺の腕を引っ張ると、そのまま少し早足で歩き始めた。 |