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人間にはどうして、愛されたいという欲求が生まれた頃からあるのだろうと思う。
それさえなければ俺はこんなにも苦しくなることはないのに。

小さい頃からいつもいつも、兄との違いを感じて、「どうして?」と問い質したい気分になっていた。
物心ついた時からそうだ。

兄さんが父さん母さんと話している時は、両親は兄さんを見ながら話す。
兄さんが話しかけたら、振り向いてちゃんと話を聞く。
だけど、俺が話しかけたら「私じゃないとダメ?琴音さんに話したら?」とか、「今忙しい」と一蹴されてしまう。
返事をもらえたらラッキーなレベル。


家族写真だって俺が生まれる前の両親と兄の3人の写真に比べると、俺が入っている写真は格段に少ない。
それに、最近はもう、入れてもらえないことが多い。
兄さんのお嫁さんと、父さんと母さん。
小さい頃は兄さんの隣にいたんだけど、そこにも入れてもらえなくなった。


仕方ないと言えば、仕方ない。
兄さんは社長で、跡継ぎ。
俺は兄さんが死なない限り、跡継ぎになることはない。
しかも、兄さん、最近子供できたと言っていたから、今度はその子が跡継ぎになるんだ。
俺にスポットが当てられることはない。
正直いなくてもいい。
いなくてもいても、変わらない存在。
要らない。


俺が何をしたんだろうと思う。
どうしてこんなに、寂しい思いをしなきゃなんないのかと思う。

でも、何もしてないからだと思う。

マナーを覚えて、勉強をして、それは全部当たり前のことで、しかも頑張ったって意味が無い。
兄さんほど目立つことのない俺は、それなりに出来ていれば何も関係ない。
一応楢崎という苗字だから、それなりには教養と学問は必要とされるけど、それを親から求められたことは一度もない。

俺はパーティに居ても居なくても変わらないから、目障りだったら連れていかなければいいだけの話だし。

「生きてれば嬉しい」そう言われたことがあるけど、多分それはその場しのぎだ。きっと俺が死んだってあの人たちは悲しまない。