1




頼まれた用事をしていたら、いつの間にか早川さんは仕事が終わったようで、脱いでいたジャケットを羽織ろうとしていた。

その顔は憔悴していて、あまりにも元気がないように見えて心配だ。

俺はぼうっとその姿を見ながら少しのあいだ考えて、そしてすぐにはっと思い出す。
そうだ、さっき買ったの渡さなきゃ。

ちょっとは喜んでくれるかな。
そしたら少し話できるかな。
そう思いながら俺は早川さんに寄って話しかけた。


「早川さん!」


今度は流石に無視せずこっちに向いた早川さん。
けど、その顔はイヤそうで、今度は何の用だよ、と伝えてきているように見える。

……ズキっと、胸が痛んだ。

いつもなら全然物怖じせずに、そのまま「なんでそんな顔するんすかー?」なんて言えるけど、なんか今はできない気がした。

その顔を見るだけで少し、傷つく。
そこまでそんな顔しなくても……と思ってしまう。


「これ、早川さんに……しんどそうだから……」

「……え」


ビニール袋を差し出すと、恐る恐るといった調子でその中身を見る早川さん。
そして、少しだけ目を見開くと、それをすぐに押し返してきた。


「え?」


押し返されるなんて思ってなかったから、少しびっくりする。
あれ?どうして?
喜ぶとまでは行かないと思ってたけど、受け取ってすらくれない?あれ?

そんな俺の思いは知らずに、早川さんはデスクにおいてあるカバンを取る。


「要らないよ」

「え?どうして!」

「お前に買ってもらわなくても自分で買ってるし」

「そ、そーかもしれないっすけど!気持ちですよ気持ち!」


俺が持ってても仕方ないし!
それに早川さんのために買ってきたんだし。
もう一度ぐっと、ダメ押しとばかりにビニール袋を押し付けたら、早川さんはそれを躱した。


「お前の気持ちなんかいらないよ。自分で使いな」


『お前の気持ちなんかいらない』その言葉が何故か深く、ズキッと刺さって俺は一瞬動けなくなる。
いや、きっと、そんなに深い意味は、無い。