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「なんですか?!」

『今から仕事に来れないかと思ってな』


志乃さんが車を降りていく。
背中に手を伸ばしても、するりと抜けて行ってしまってあと少しのところで触れられない。

待って、追いかけなきゃ。
ちゃんと話をしなきゃ!!


「どうして!?」


バンっと閉まるドア。
俺は慌てて運転席側から外を見る。
志乃さんがどんどん遠くなる。


『お前にしかできない仕事が入ってな』

「はい?!なんですかそれ!」


車から降りて追いかけようにも、車が絶えず通っていてドアが開けられない。
早く!早く!

俺は窓から外を見ながら、どんどん焦っていく。
手が少し震えてきている。

志乃さんを追いかけなきゃ。
そればかり考えて、俺は窓を睨んだ。


『元気そうだな』

「元気じゃないです!」

『耳がキンキンする』

「俺は休みたいんです!!」

『頼むよ。今日中だ、大事な取引先なんだよ。』

〜っ!!」


次から次に車が来る。
くそ!!なんでこんな時だけ切れない?
どうして!!


『昼からでいい。それが終わったらすぐ帰っていいから。その仕事を四時までに仕上げてくれ』


電話が切れて、俺は助手席に携帯を投げた。
信号が赤になって、やっと切れ目ができたと思ったら、もう志乃さんの姿はどこにも見えない。

時計を見たらもう11:50だった。

探す時間が無い。

嫌なことが重なってばかりだ。

どうしてこんな時に限って仕事なんて!!

俺は「はぁあっ、」とため息を吐くと、そのまま着替えるために家に戻ることにした。