7 「なんですか?!」 『今から仕事に来れないかと思ってな』 志乃さんが車を降りていく。 背中に手を伸ばしても、するりと抜けて行ってしまってあと少しのところで触れられない。 待って、追いかけなきゃ。 ちゃんと話をしなきゃ!! 「どうして!?」 バンっと閉まるドア。 俺は慌てて運転席側から外を見る。 志乃さんがどんどん遠くなる。 『お前にしかできない仕事が入ってな』 「はい?!なんですかそれ!」 車から降りて追いかけようにも、車が絶えず通っていてドアが開けられない。 早く!早く! 俺は窓から外を見ながら、どんどん焦っていく。 手が少し震えてきている。 志乃さんを追いかけなきゃ。 そればかり考えて、俺は窓を睨んだ。 『元気そうだな』 「元気じゃないです!」 『耳がキンキンする』 「俺は休みたいんです!!」 『頼むよ。今日中だ、大事な取引先なんだよ。』 「〜っ!!」 次から次に車が来る。 くそ!!なんでこんな時だけ切れない? どうして!! 『昼からでいい。それが終わったらすぐ帰っていいから。その仕事を四時までに仕上げてくれ』 電話が切れて、俺は助手席に携帯を投げた。 信号が赤になって、やっと切れ目ができたと思ったら、もう志乃さんの姿はどこにも見えない。 時計を見たらもう11:50だった。 探す時間が無い。 嫌なことが重なってばかりだ。 どうしてこんな時に限って仕事なんて!! 俺は「はぁあっ、」とため息を吐くと、そのまま着替えるために家に戻ることにした。 |