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「する、志乃さんが許してくれるだけする」

「そんなん、どこまでしたっていいぜ?」

「……ねぇ志乃さん」


ハルの手が、俺の髪の毛を撫でた。
初めて見た時から思ってたけど、稀に見る美形だと思う。
飛び抜けてはいないけど、そこら辺のよりもかっこいい。
モテるんだろうなぁ……。


「俺だけじゃ、ダメなんですか?」

「俺だけ?」

「俺だけ、俺だけが志乃さんを愛してはダメですか?」

「ハル……」


俺を抱きすくめて、もう一度繰り返すハル。
それを俺はイエスともノーとも言えない。
ずるい人間だ。
ハルが俺を見なくなるのが嫌だと思う。
けど、ハルと、ハルの望む関係になるのは俺の中で何かが違う気がする。

俺の中でハルと俺はやっぱり、客と主の関係でそれ以上はないと思う。
ハルに客以上の感情を持ってもらうのは嬉しいけど、それまで。

ハルの気持ちになるとかなり酷いことを言うやつだと思う。
だけど、ハルにもう俺と居るのはやめろなんて、そんなことは到底言えない。
怖くて言えない。

俯いたままでいたら、ハルが俺の耳を食んだ。
少しそっちの方に向いたら、その口は俺の口に移動してそのまま重なった。


「ん。」


しばらくそのまま唇をくっつけて、二人で呼吸を合わせた。
波の音だけが聞こえて、どうしようもなくこのまま世界がなくなってしまえばいいと思った。

目を開けたら、長いまつげが目に入る。
手を伸ばしてその端正な顔に触れた。


「ハル、手、繋ごうぜ」

「あ、あぁ」

「カーセックスって、やってみてぇんだ。俺」

「あんたはまた……いい雰囲気だったのになぁ」

「振られてるぜ?」

「傷口に塩塗りこまないでくださいよ!!」

「でも俺とセックス、したいだろ?」

「あんたはもう……」


呆れた顔をするハルと、俺は目を合わせられなかった。
ハル、始末が無いほど汚くて下劣な俺を、どうか許して欲しい。