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「んぁーーー、着いた!」

「本当だ。海だ」


途中で買った煙草をくわえながら、俺は窓から見える海を見た。
青くて、キラキラ光っている。
海は前に見た海と相変わらず変わっていないようだった。
穏やかに揺れて、付近には鳥も飛んでいる。
昨晩雨が降ったからか、砂浜は濡れていて、砂浜がカラカラな時に見るのもまた綺麗なのだろうと思う。
ハルをみたら、ハルは疲れたのかハンドルにもたれて俺を見つめていた。


「海、好きなんですか?」

「好きっていうか、見てるとすげえなって思う」

「すごい?」

「なんかわかんねーけど。なんかなぁ。壮大っつうか……」

「志乃さんってもしかして馬鹿……」

「てめぇ歯ァ食いしばれ」

「ごめん!ごめんなさい!!」


律儀な俺は、車から降りてさっき買ったライターで咥えていた煙草に火を付けた。
銘柄には特にこだわりはない。
だから、目に付いたものを選ぶ。
だいたい5ミリ付近を吸っているはずだけど、たまにすげー軽いのやすげー重いのを吸って、 1人で顰め面したり噎せたりしてる。


「煙草おいしいんですか?」


車から降りてきたハルが、俺の隣に立って俺を覗き込んだ。
暗いところでしか見なかったから、分かんなかったけどこいつ意外と髪が細い。
さらさらして、それなのに色は濃い。
染めてんのか?


「美味しい……っていうかなぁ、もう癖みたいな感じだわ。吸ってねーとなんだか口寂しいし、イライラして吸ったタバコは美味しいと思うなぁ。疲れた後とか」

「へぇ……じゃあ今俺美味しいのかな」

「吸ってみる?」

「え、あー……じゃあ。」


よくわからんメンソール。
キツいからよければ吸って欲しい。
ライターの火を近づけてやる。


「吸って」

「ん、っぐへ!ごほっ、げほっ!!」

「ぶは、あははは!!!」


火がついた瞬間、噎せるハルを見て俺は盛大に笑う。
こうなることはわかってたんだが、これを見るのが醍醐味ってもんだ。


「っに、にが!美味しい……っ?!」

「あはは、これスースーして俺には合わねーや。やるよ」

「吸わない!!」

「もっとけっておら」


煙草をもったまま、わたわたとするハルのポッケに18本入っているタバコの箱を押し入れた。
ハルはなんとも言えない顔をしながら、そのタバコが入ったポッケを上からいじっていた。