5 5 服を着替え終わった俺は、昨日乗ったハルの車に乗せてもらった。 ハルの車は、いたってシンプルな車だ。 四人乗りの普通車。 ナンバープレートをみて、記念日にしているのが分かってなんだか鼻で笑ってしまった。 なんか、ブルーバスターの結成日と同じだった。 昨日乗った助手席は、昨日よりも少し狭い気がした。隣に座るハルがよくみえる。 「ここから一番近い海はー」なんて考え込むハルをみながら、俺はきっちりシートベルトをした。 びしょびしょに濡らしていたはずのシートは乾いていた。 「よし決まり!」 「ハル、タバコ吸いてぇ」 「俺の車禁煙車です!」 「そこをなんとか」 「タバコ持ってないでしょあんた」 ヤニ切れが半端ない。 チッと舌打ちをする俺に構わず、ハルは車のエンジンをかけて、ふんふんとBGMでかかる俺の歌に合わせて鼻歌を歌い出す。 なんだか複雑な感じだ。 車の窓を開けたら、どんどん風が入ってくる。 それをみたハルも同じように窓を開けた。 平日だからか車通りが少ない。 「志乃さーん!俺ね!助手席に人乗せるの久しぶりです!!」 俺が外の景色を見ながら、シートベルトを握った時だった。 いきなりハルが外に向かって叫ぶ。 しかしその言葉は俺宛てで、俺はハルの方を向いて返事をした。 「はぁ?」 「乘せるような人いなかったから!!」 「分かった、分かったからなんでお前は外に向かって叫ぶんだ」 テンションが上がっているのか、にこにこしながら外に向かって叫ぶハルに、呆れてしまう。 なんだかそういうところはガキなんだなぁ。 「嬉しいからです!!志乃さんが隣に乗ってくれて!!」 「昨日だって乗っただろうが!」 「昨日は暗くてなんだかよくわからなかったけど今すごく明るいし雨も降ってないし!世界が俺たちが海に行くことを歓迎してるみたいですね!!」 「おめでたいやつだなお前は……」 そうだ、そういえば。 数時間前はあんなにも土砂降りだった雨が、今はすっかりと止んで、日が照りそうな勢いだった。 けれど、それをそこまで肯定的に捉えるハルに、俺は苦笑いをするしかできなかった。 「好きな人が隣に乗るっていうのは、すごく気持ちがいいです」 「そうかそうか。運転する姿もかっこいいぜ、ハル」 「あはは、照れるなー」 確かにハルの運転する姿はかっこいい。 様になるというか。 車の中ではhigh limitが流れている。 俺はそんなことを思いながら、どこかその曲を自分ではない他人の曲を聴いているような感覚で聞いていた。 |