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すると、かすかに鼻の奥に痛みを感じて、次の瞬間にはぼやける視界。
「あ」と思う。

俺、泣いてる。

ぼろ、ぼろ、とわかるように涙が出て、やばいと感じる。

ハルが慌てたように目を見開いて、俺を抱き締めた。
あったかい温度が俺を包んで、もっともっと心臓がくるしくなって、その周りの胸までいっぱいになる。


「どうしたんです?志乃さん。痛い?」

「痛く、ねぇよ。もう……」

「じゃあどうして泣いてるんですか」


あぁくそ、情けねぇ。
バンドを辞めてから、俺は涙腺が緩くなったような気がする。 昔は泣くことなんて無かったのに。

体が小さくて、顔も女っぽいから、昔からよくバカにされてきた。
だから誰よりも男っぽく居たいとおもって、そこら辺は常に気をつけていたのに。

こんなことをし始めて、男に抱かれて男にウケることを探して行ったら、いつの間にかいつよりも自分が女っぽくなってしまった気がする。

抱かれると、女扱いされると、心までオンナになるんだろうか。


「泣かないで、泣かれたら俺、どうしたらいいかわかんなくなるよ」

「ばか、これは欠伸」

「欠伸、ですか。」


苦しすぎるのに、ハルはうんうんと頷いて、俺を撫で続ける。
そんなハルの体にゆっくりと俺は体を預けた。
心地いい体。
伝わってくる体温が俺をじわじわと癒して行く。

あの男が帰って、手城に風呂に入るかと言われた時、俺は首を振ってそのままケータイを持ってそこを飛び出してしまった。

あとでなにか言われるかもしれない。

大雨の中、雨が体を流していくのを感じて、すべて流れた気にはなったけど、何故か無性にハルの優しさが恋しくなった。

とびきり優しくされたい気分だった。


「ハル」


ハルの服を引っ張って、俺がキスをせがんだら、ハルはゆっくりと俺の唇に唇を重ねて、体ごと俺をゆっくりと解放した。

その優しさが、体の奥の奥まで染み渡るようだった。