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「志乃さんは、そこまでして沢山の人に愛されたいんですか?身を削ってまで?」


かわいそうな人だと、思った。
彼の性格をここまで曲げてしまったその事件を恨む程に。
だけど、同時にもやもやした。
どうしてそんなに愛されることを望むのか。


「……俺は志乃さんのこと、代わりがいるような人だと思ったことないです」

「……おう。」


「だって、神ですもん。青春時代の神。……ねぇ志乃さん。俺は嫌です。」


俺には分からない込み入った事情がある、それは本当によくわかる。
俺は志乃さんと生きてきたわけじゃないから、志乃さんについて全く知らない。
表向きの世界の姿は、少し知ってるかもしれないけど、裏で何をしていたか全然知らない。

でも、未だに下を向いている志乃さんを、俺はゆっくりと抱き締めた。


「俺は、見たくない、志乃さん。俺はそんな志乃さんの姿を見たくない。志乃さんの言い分は分かったけどいやだよ。」


志乃さんが何を考えて、何を思ってるのか俺にはまだはっきり分からない。
だけど、志乃さんの傷だらけの姿は見たくない。

そんな志乃さんをみると、心がざわついて気が気じゃない。
守ってあげたくて仕方なくなる。
志乃さんが傷つかなくて済む方法は、どこかにあるんじゃないか。いや、絶対ある。


「志乃さん、俺ね、志乃さんが好きだよ。志乃さんが好きです。」


きっと、たくさんの愛を求めるあなたには俺の愛なんてちっぽけでなんの足しにもならないかもしれない。
だけど、そんな人となんて切って、その人の代わりに俺の愛を2人分でも3人分でも持って行っちゃえばいい。
その人の代わりをできるぐらい、いっぱい愛を上げるから。


「ハル、嬉しいよ」


へら、と笑った志乃さんは満足げだった。
けど、どこか乾いたような顔でまた自分のポスターを見つめていた。

どこか不満げな顔。
もしかしたらこの人は、何人に愛をもらっても満足しないんじゃないんだろうか。

どうせ満足しないなら、俺だけの愛で、あなたが満たされたらいいのに。


「……志乃さん、ご飯食べましょっか」