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「俺を見て欲しい?どういうことです。」


意味がわからなくて聞き返した。
すると志乃さんは、たどたどしく俺から目を離して、自分のCDに手をかけた。


「あの店では俺しかできない。だったら俺がそれに応じればその人の一番に俺はなれる。」


一番?
まるで、片思いする乙女のようだと思った俺は、あながち間違いでもない気がする。
どうしてそんな痛い思いをして、そいつの一番になろうとするのか。
そんな身を削ってまでその人の一番が欲しいってことは。

一瞬にして体内を黒いものが満たしていく。


「……その人のこと好きなんですか?」


けれど、志乃さんは首を左右に振った。
そして、とった自分のCDのジャケットを撫でて、目を細めた。


「好きじゃない。来なければいいって思う。だけど違ぇんだよ。俺が断ればあの人は他の風俗に行って、また俺と同じことを出来る人を探すだろ?そんでもし見つけたらその人のことを俺よりいいって思うだろ?俺なんか求めるのをやめて、その人を求めるだろ?」


包帯には血が滲んでいる。
その言葉だけで俺には理解することができなくて、頭の中に?を浮かべることしかできない。

好きじゃない、のはわかった。
それはわかったのだけど。


「あの風俗で、あの界隈で俺しかできない。俺しかできないってすごいことだろ?他より価値が高い。そういう趣味の奴らが集まって、俺を求める。俺の価値が上がる。俺に価値ができる。」


志乃さんは、CDをまた元あった場所に置くと、俺に寄りかかった。


「ブルーバスターのシノは代替品が沢山ある量産型ボーカル。」


少しトーンが落ちた声音で、聞こえてきたその言葉に、俺は息を飲んだ。