4





適当に電気をつけて、脱衣所まで行く。
部屋も外の雨のせいかキンキンに冷えてしまっている気がした。


「志乃さん、こっちが風呂……志乃さん?」


風呂場を教えようとして、俺は志乃さんがいる後ろに振り返る。
今まで暗がりでよくみえなかった志乃さんが、今やっとはっきり見えて、俺は目を見開いた。


「あ?」

「……なんですかそれ!?」


肌蹴た服から覗く切り傷。
首と、胸を一直線に走っている傷口からはまだ血がにじんでいる。
服も良く見たら血が滲んでいた。


「あ、血、出てる?」

「出てるじゃなくて、あんた……それで痛いって」

「んー……いてぇ」


だから目も虚ろで……。
俺は志乃さんに近寄って首元を見た。
相変わらずくっきりとついている手形。
緩い服から覗く傷が見えて、そっと覗き込んでみたら、まだ奥にも傷が続いていた。


「これ……されたんですか……」

「自分でするわけねーだろ?」

「前の人?俺が前見たのと同じ人?」

「そーだよ」


志乃さんの顔にかかっている前髪をかきあげて、顔を覗く。
俺を見つめ返してきた顔は、明らかに疲れていた。
そして、力なく「へへ」と笑うと、俺にまたぎゅう……と抱きついてきた。


「……志乃さん、どうしてそんなことさせるんですか……。あんた痛いの嫌いなんでしょ?断れないんですか」

「んー……断れねぇことは……ねぇけど」

「じゃあどうして、断らずにやりたいようにされるんですか」

「俺しかできないから」

「は?」

「あの店で、あの界隈で、俺しかできないから」


志乃さんが切なげに目を細める。
俺には全く意味がわからない。
それなのに志乃さんは、くるりと体を翻すとそのまま「風呂」と言って風呂に入ってしまった。