1 「いいとこ住んでんなぁ……」 俺の住んでいるところはワンルームのマンションだ。 自分の身の丈に合った、普通のマンション。 一人で暮らすのに何一つ不自由することなく、持て余しもしていない部屋。 俺は駐車場に車を止めると、そのまま車のキーを抜いた。 「全然いいとこじゃないです。ここまで来ると全然都会じゃないし勤務地まで遠いし。最近たったばかりだから、外装はいいけど……立地が全然良くないんですよ」 「よくわかんねぇけど……いいじゃん。こんな普通のとこ」 「普通のとこ?」 俺は自分の住んでいるマンションを見上げた。 確かにこれが勤務地付近にあれば相当いいと思うけど……。 そしたらかなり家賃が高くなるんだろう。 俺はふう、と一息吐くとそのまま運転席を降りた。 「志乃さん。降りてください」 「ん、降りる」 助手席まで回って、助手席を開けると志乃さんがひとつ頷いた。 なんだか、いつものように偉そうな雰囲気がないというか、媚びへつらってにやにやしてるところがないからか、違う人のように見える。 「ちょっと、肩、貸して」 志乃さんは、俺の肩を持つとそのまま緩慢な動きで車から降りる。 車内灯がぼんやりと志乃さんを照らすけど、相変わらず志乃さんは下を向いたままで、表情はよく見えない。 「飲みすぎたんですか?」 「ん、んー……んー……」 「え?」 「ちげぇよ……」 俺の正面に立った志乃さんは、よたよたとしながら車から離れる。 俺はそれを目で追いかけながら、ドアを閉めるとキーでロックをかけた。 しかし、その瞬間志乃さんはボスっと俺の背中に寄りかかった。 うわ、と思うと同時にじわじわと水滴が染み込んでくる。 傘を持っていないせいで、俺と志乃さんはざあざあと降る雨に打たれている。 「志乃さん?」 「んんん……」 「眠いの?」 「痛い……」 「え?痛い?腰?歩けないんですか?」 「おぶって……」 「い、いいですけど……」 |