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「いいとこ住んでんなぁ……」


俺の住んでいるところはワンルームのマンションだ。
自分の身の丈に合った、普通のマンション。
一人で暮らすのに何一つ不自由することなく、持て余しもしていない部屋。
俺は駐車場に車を止めると、そのまま車のキーを抜いた。


「全然いいとこじゃないです。ここまで来ると全然都会じゃないし勤務地まで遠いし。最近たったばかりだから、外装はいいけど……立地が全然良くないんですよ」

「よくわかんねぇけど……いいじゃん。こんな普通のとこ」

「普通のとこ?」


俺は自分の住んでいるマンションを見上げた。
確かにこれが勤務地付近にあれば相当いいと思うけど……。
そしたらかなり家賃が高くなるんだろう。
俺はふう、と一息吐くとそのまま運転席を降りた。


「志乃さん。降りてください」

「ん、降りる」


助手席まで回って、助手席を開けると志乃さんがひとつ頷いた。
なんだか、いつものように偉そうな雰囲気がないというか、媚びへつらってにやにやしてるところがないからか、違う人のように見える。


「ちょっと、肩、貸して」


志乃さんは、俺の肩を持つとそのまま緩慢な動きで車から降りる。
車内灯がぼんやりと志乃さんを照らすけど、相変わらず志乃さんは下を向いたままで、表情はよく見えない。


「飲みすぎたんですか?」

「ん、んー……んー……」

「え?」

「ちげぇよ……」


俺の正面に立った志乃さんは、よたよたとしながら車から離れる。
俺はそれを目で追いかけながら、ドアを閉めるとキーでロックをかけた。

しかし、その瞬間志乃さんはボスっと俺の背中に寄りかかった。
うわ、と思うと同時にじわじわと水滴が染み込んでくる。
傘を持っていないせいで、俺と志乃さんはざあざあと降る雨に打たれている。


「志乃さん?」

「んんん……」

「眠いの?」

「痛い……」

「え?痛い?腰?歩けないんですか?」

「おぶって……」

「い、いいですけど……」