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「拭いてます?」


ワイパーを頻繁に動かさなければ、前が見えないほどの雨。
俺はちらりと隣の助手席を見た。
すると志乃さんは、緩慢な動きで頭の水を拭き取っていた。


「んー、拭いてる拭いてる。」


とりあえずこの人の濡れた服をどうにかして、体をあっためなきゃ。
どうしよう、と頭を捻った結果に出てきたのは、俺の家だった。


「風呂入らなきゃ風邪ひいちゃいますよ……俺の家でいいですか?」

「ハルん家?なんだ、連れ込む気かー?このムッツリめ」

「あのねぇ……そのままどっかに行っても変な目で見られるし、何より濡れたまんまじゃ風引くでしょう」

「ごめんな、濡らして」

「……そういうことを言ってるんじゃないです。どうしたんですか?何かあったんですか」


明らかに声の覇気がない。
普段も結構間延びしてて、破棄がないけどそれよりも覇気がない。
こんな志乃さんをみたのは、初めてだという程で、俺は前を見ながら、どうしていいのか迷っていた。


「……ハル、お腹すいた」

「わかってますよ。何が食べたいんですか?」

「んー……なんでも、いい。おいしいもの」

「美味しいものって一番困りますよ。」

「ハルがおいしいものが食べたい」


少し速度を上げて空いている道路を進む。
ちらりと志乃さんをみると、志乃さんはシートにもたれてぼうっと外を見ていた。
ここからは表情は見えない。

タオルで頭は拭いたらしいが、まだポタポタと水滴が垂れていた。