5 「拭いてます?」 ワイパーを頻繁に動かさなければ、前が見えないほどの雨。 俺はちらりと隣の助手席を見た。 すると志乃さんは、緩慢な動きで頭の水を拭き取っていた。 「んー、拭いてる拭いてる。」 とりあえずこの人の濡れた服をどうにかして、体をあっためなきゃ。 どうしよう、と頭を捻った結果に出てきたのは、俺の家だった。 「風呂入らなきゃ風邪ひいちゃいますよ……俺の家でいいですか?」 「ハルん家?なんだ、連れ込む気かー?このムッツリめ」 「あのねぇ……そのままどっかに行っても変な目で見られるし、何より濡れたまんまじゃ風引くでしょう」 「ごめんな、濡らして」 「……そういうことを言ってるんじゃないです。どうしたんですか?何かあったんですか」 明らかに声の覇気がない。 普段も結構間延びしてて、破棄がないけどそれよりも覇気がない。 こんな志乃さんをみたのは、初めてだという程で、俺は前を見ながら、どうしていいのか迷っていた。 「……ハル、お腹すいた」 「わかってますよ。何が食べたいんですか?」 「んー……なんでも、いい。おいしいもの」 「美味しいものって一番困りますよ。」 「ハルがおいしいものが食べたい」 少し速度を上げて空いている道路を進む。 ちらりと志乃さんをみると、志乃さんはシートにもたれてぼうっと外を見ていた。 ここからは表情は見えない。 タオルで頭は拭いたらしいが、まだポタポタと水滴が垂れていた。 |