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志乃さんが、歌う。


ぼんやりと頭のなかに浮かんできた志乃さんが、歌う。
ライブの時のshinoと重なって、ライブの時のshinoを思い出した。

ん、んんんっ!?

思わず壮絶的な刺激が体中を駆け巡る。
いや、分かっていたことだけど、これはすごいことだと思った。

その歌っていた体で、歌っていた喉で俺に抱きついて、前なんてしかも「すき」だなんて言って。

あの時は気が動転しててそこまで思ってなかったけど、これはかなりすごいことだぞ。
俺、いつの間にかすごいことになってるぞ。

初めの一回だけ。
あの時しか、俺は志乃さんをshinoと重ねなかったから、思わなかったけど、すごい。
たぶん、あそこの風俗を訪れる人は、こういうギャップというか、なんとも言えないこの感覚が味わいたくていくんだろう。

あんなに人の目が集まって、とても自分の手に届くものじゃなかったものが、目の前にあって好きにできる。
確かにこれは、快感を増幅させるかもしれない。


そこまで考えて「あっ」となる。
だから、志乃さんは俺にケンカを売ってたんだずっと。
高圧的で挑発的だったんだ。
「ブルーバスターのシノだからって来てるんだろ」とかいって、それから「笑いに来たんだろ」って。
「好きにするのがいい」とおもってるから、だからいつも、「好きにしろ」っていうんだ。


たしかに俺も、そこに快感を感じないと言ったら嘘になるけど……。

でも違う。

shinoが志乃で、志乃がshinoって言うのはかなりすごいけど……。
俺はそこを同化してるんじゃない。

俺は、BLUE BUSTERのshinoが好きなんじゃないんだよなぁ。
志乃さんとは、体を重ねたいと思うけど、shinoとは思わないもん。

歌を聞きながら、ポスターを見ながら思う。


俺はあの人の歌も好きだし、何もかも好きだけど、その好きとは違うんだよなぁ。