5 志乃さんが、歌う。 ぼんやりと頭のなかに浮かんできた志乃さんが、歌う。 ライブの時のshinoと重なって、ライブの時のshinoを思い出した。 ん、んんんっ!? 思わず壮絶的な刺激が体中を駆け巡る。 いや、分かっていたことだけど、これはすごいことだと思った。 その歌っていた体で、歌っていた喉で俺に抱きついて、前なんてしかも「すき」だなんて言って。 あの時は気が動転しててそこまで思ってなかったけど、これはかなりすごいことだぞ。 俺、いつの間にかすごいことになってるぞ。 初めの一回だけ。 あの時しか、俺は志乃さんをshinoと重ねなかったから、思わなかったけど、すごい。 たぶん、あそこの風俗を訪れる人は、こういうギャップというか、なんとも言えないこの感覚が味わいたくていくんだろう。 あんなに人の目が集まって、とても自分の手に届くものじゃなかったものが、目の前にあって好きにできる。 確かにこれは、快感を増幅させるかもしれない。 そこまで考えて「あっ」となる。 だから、志乃さんは俺にケンカを売ってたんだずっと。 高圧的で挑発的だったんだ。 「ブルーバスターのシノだからって来てるんだろ」とかいって、それから「笑いに来たんだろ」って。 「好きにするのがいい」とおもってるから、だからいつも、「好きにしろ」っていうんだ。 たしかに俺も、そこに快感を感じないと言ったら嘘になるけど……。 でも違う。 shinoが志乃で、志乃がshinoって言うのはかなりすごいけど……。 俺はそこを同化してるんじゃない。 俺は、BLUE BUSTERのshinoが好きなんじゃないんだよなぁ。 志乃さんとは、体を重ねたいと思うけど、shinoとは思わないもん。 歌を聞きながら、ポスターを見ながら思う。 俺はあの人の歌も好きだし、何もかも好きだけど、その好きとは違うんだよなぁ。 |