3 初めて店に来たのはいつだったか。 手城に「一応通しましたけど、無理だったら断ってください。うちそういうの専門じゃないんで」そう言ってもらって。 逃げ道がなかったわけじゃない。 実際俺も、「すんません、ハードすぎなのはちょっと」とか言ってみたりして。 だってなんて言ったと思うあの人。 『ナイフ、使ってもいい?大丈夫、1センチ以上の深い傷はつけないって約束するから』 1センチってさ、結構あるぜ。 深さ10ミリ。 でも、俺がそう言ったら、彼は『そう、じゃあ他行くよ。君じゃなくても沢山いるしね』そう言った。 傷つけられるのが好きなわけじゃない。 傷つくのも好きじゃない。 俺は毎日自分を守ることに必死だ。 どれだけうまく傷つかずに毎日を過ごすか。 そればかり考えてる。 こんな客居なくても、こんな変な一人の客なんて。 そう思ったのに俺は、いつの間にか彼の腕を掴んで帰ろうとするその体を引き止めていた。 「いいっすよ。……あんたの相手、してあげる。あんたの満足いくように……すればいいじゃん……その代わり俺のことも気持ちよくしてよ」 人生っていうのは、大抵思い描いた通りに進んではくれない。 一寸先の未来だって、予想していた未来とは全く変わってしまう。 日々何が起こるかわからない。 高校の頃俺は、今の自分がこんなことしてるなんて思ってなかった。 微塵も考えやしなかったこんな可能性。 中学の頃はあんな高校生活を送るとは思っていなかったし。 しかも大抵、転がる先は闇。 俺はそれに毎日怯えながら過ごしてる。 あぁ、明日はなにがあるんだろう。 ここが谷の一番深いところじゃなかったら。 もっと深いとこがあったらどうしよう。 幸せなんてほんの一瞬。 人生短くても長くても幸せの比率と不幸の比率は同じだと思う。 少しは笑って過ごしたい。 こんなことしてんだから、もうどうでもいいやってなってしまいたい。 だけどどうしても俺は、なかなかそれができない。 なかなか、人に執着することをやめられない。 |