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「俺も全く知らないってわけじゃないんだけど、有名なチェーン店とかしか行ったことなくてさ。だからいいとこないかなーって。」


スマホを見ていた早川さんの顔が綻ぶ。
それをみて俺の胸はズキっと面白いほどに傷んだ。

頭では「あー、そういうこと」ぐらいにしか思ってないのに、心臓がキリキリと締め付けられる。

どうしてこの閑散とした場所にある、このこじんまりしたラーメン屋がいいと言ったのか。
なぜ、突然ラーメンを食べに行こうといったのか。

最初から分かってた。
そりゃ、俺のために行くんじゃないこと。
俺と飯を食べたいから行きたいってことじゃないこと。

俺はオマケだ。
居たから誘われたオプションだ。
そんなことわかってたのに、考えればわかる筈なのに、でもなんか嬉しくて、浮かれてた。


「ラーメン好きなんすか、その人」

「さぁ、聞いとかないとね。でも餃子を食べたいとはいってた。人が多いところダメな気がするから、こういうとこいいなぁ」

「元芸能人っすもんね」

「えっ」


ちょっと必死になって選んだ。
早川さんが行きたいんだ思って。
まぁ、早川さんが行きたいには変わりないけど。
そっか、俺と来たここ、今度はその人と来るんだ。

しかもその人と来るために今日ここに来たんだ。


「わかんないわけないじゃないっすか。ケータイみてニヤけてるし。ほんとむっつりっすねー」

「だからむっつりって……」

「メアド交換したんすか?」

「……その人じゃないからな」

「またまたぁ」


早川さんは嘘をつくのが下手。
見てたらすぐわかる。
今の嘘だ。


「失礼します。お待たせいたしました。こちらとんこつラーメンと……、こちら醤油です」

「ほんと好きなんすねぇ、早川さん。」

「だから違うから……。……隼也?」

「俺とんこつラーメンがいいっす。」

「は?」

「だから醤油食べてください」


俺は割りばしを割ると、そのままとんこつラーメンを啜った。
ラーメンもすごく美味しいラーメン屋さんだった。