8 「俺も全く知らないってわけじゃないんだけど、有名なチェーン店とかしか行ったことなくてさ。だからいいとこないかなーって。」 スマホを見ていた早川さんの顔が綻ぶ。 それをみて俺の胸はズキっと面白いほどに傷んだ。 頭では「あー、そういうこと」ぐらいにしか思ってないのに、心臓がキリキリと締め付けられる。 どうしてこの閑散とした場所にある、このこじんまりしたラーメン屋がいいと言ったのか。 なぜ、突然ラーメンを食べに行こうといったのか。 最初から分かってた。 そりゃ、俺のために行くんじゃないこと。 俺と飯を食べたいから行きたいってことじゃないこと。 俺はオマケだ。 居たから誘われたオプションだ。 そんなことわかってたのに、考えればわかる筈なのに、でもなんか嬉しくて、浮かれてた。 「ラーメン好きなんすか、その人」 「さぁ、聞いとかないとね。でも餃子を食べたいとはいってた。人が多いところダメな気がするから、こういうとこいいなぁ」 「元芸能人っすもんね」 「えっ」 ちょっと必死になって選んだ。 早川さんが行きたいんだ思って。 まぁ、早川さんが行きたいには変わりないけど。 そっか、俺と来たここ、今度はその人と来るんだ。 しかもその人と来るために今日ここに来たんだ。 「わかんないわけないじゃないっすか。ケータイみてニヤけてるし。ほんとむっつりっすねー」 「だからむっつりって……」 「メアド交換したんすか?」 「……その人じゃないからな」 「またまたぁ」 早川さんは嘘をつくのが下手。 見てたらすぐわかる。 今の嘘だ。 「失礼します。お待たせいたしました。こちらとんこつラーメンと……、こちら醤油です」 「ほんと好きなんすねぇ、早川さん。」 「だから違うから……。……隼也?」 「俺とんこつラーメンがいいっす。」 「は?」 「だから醤油食べてください」 俺は割りばしを割ると、そのままとんこつラーメンを啜った。 ラーメンもすごく美味しいラーメン屋さんだった。 |