1 少しだけ酔った。 酔うと凄く気が楽になる気がした。 世の中のサラリーマン達が毎日仕事終わりに酒を煽る理由が分かる。 普段なら明日授業あるから、早めに帰ろうとか思うのに、酔うと「いいじゃん、行っちゃおう!」って気分になる。 フワフワして気持ちいい。 白けてきた空をタクシーの窓から覗きながら、時計を見る。 もう5時になっていた。 今日はバイトだ。 といっても行くのは16時から。 授業もないし帰ってゆっくり寝れる。 いつの間にか家の前に着いていて、運転手さんに俺はカードを差し出しながら、中を覗く。 ガードマンが見えるだけでほかには分からない。 「ありがとうね、おじさん」 「いいんだよ。ワシも今から帰って寝るわい」 「そうなんだ。居眠り運転しないようにね?」 「まだそんなに眠くないよ。坊ちゃんもよく寝るんだよ」 「あはは、うん。たっぷり寝るよ、おやすみ。」 良く知らないおじさんに手を振って、タクシーを見送る。 そしてはぁっと息を吐いた。 琴音さんにまた怒られるなぁ。 「お勤めご苦労さま、ありがとうね」 ガードマンさんに挨拶したら、会釈された。 うちのガードマンはいつも怖い。 逃走中ってやつみたい。 玄関に立っていた使用人が、ドアを開けてくれた。 「隼也さん、朝帰りですか?」 「すっかり明るいね」 「……いい人でもいるんですか?」 「はは、違うよ。少し飲みに行ってた」 「そうですか。飲みに出かけられるぐらいならお屋敷で飲んだ方がよろしいでしょう。外とは比べ物にならないほどいいお酒がありますよ」 「俺はまだお酒の味はわからないからね。楽しく飲めたら安いお酒でもいいんだよ。カクテルが美味しいとか思うガキだし」 「いいものは美味しいですよ」 「琴音さん何か言ってた?」 「少しだけ。」 やんわりと咎められてるから、と思って聞いてみたらやっぱりそうだ。 俺が帰ったら怒るようにって言われてんのかな。 使用人がバツが悪そうに笑うのを見て、俺も一緒に同じ顔をして笑った。 |