1 適当に何も考えずに染めた髪の毛。 傷みまくって目も当てられない。 適当に無心で開けたピアスもよく見るとあんまりセンスがない。 俺は適当に選んだ服を着て、そのまま玄関へと歩いた。 無駄に長い廊下。 ホコリひとつ見当たらない部屋。 見慣れた景色に何も思わず進む。 「隼也様。お出かけですか?」 「うん。ちょっとでてくる。帰りはいつかわからないから待ってなくてもいいよ」 「お迎えはどうなさいますか?」 「あぁ、いい。タクシーでも使うからさ」 新入りだろうか。 俺を見て、「わかりました」とお行儀よく伝える姿に、なにかイタズラをしたくなる。 可愛い男の子だ。 年は自分より少し上か、同じぐらいだろうか。 「ねぇ、君。名前は?」 「え?」 「名前。」 「あぁいえ、伝える名前など」 「俺が呼びたいから聞いてるんだよ。教えて、偽名でもいいからさ」 おどおどとし出すその姿に思わずふふふ、と笑ってしまう。 するとその男の子は、「あぁ、えぇと」とキョロキョロし始めた。 あぁ、困ってる困ってる。 「ちょっと!!!ぼっちゃん?!」 「ぎぇっ!!」 そう思った矢先、キンキンと耳に響く声が聞こえて、俺の体は跳ね上がる。 急いでその男の子の奥を見れば、俺の世話係の琴音さんが走ってきていた。 まずい!! このまま見つかればお説教だ。 「隼也様?」 「名前は今度でいいから聞かせてね。やめたりしたらダメだよ。俺君と仲良くなりたいから!!迎えはいらない。いいね?じゃあ!」 琴音さんのキンキンとした大声が廊下に響き渡る前に、俺は長い廊下の残り少しを走ってそのまま玄関を突っ切る。 琴音さんは俺の面倒を見てきた、育ての母みたいな人だ。 嫌いではないのだけどすごく厳しくて、好きだけどすごく鬱陶しい。 見事脱出することに成功した俺は、適当に呼んでいたタクシーに乗って夜の街に出かける。 完全に落ちてしまった日を眺めながら、俺は最近覚えたタバコの箱を取り出した。 俺の名前にある楢崎。 楢崎というのは日本では知らない人はいないというほどに、有名な名前だ。 ヤクザと絡みの薄い健全な財閥として有名な楢崎財閥は、メディアにもよく取り上げられている。 父親は楢崎財閥の会長、母親は東雲財閥の令嬢。 その間に生まれたのが、兄と俺。 現在、その兄が結婚して、その結婚を機に楢崎グループを束ねる社長になった。 順風満帆の楢崎財閥。 兄が社長になり、父が会長にスライドして、ますます楢崎財閥は安泰を極めている。 俺から見てもそう思う。 それは俺にとっていいことであって、とても喜ぶべきことなんだろうけど、ふと俺はそれを全部壊してしまいたい衝動に駆られることがある。 |