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適当に何も考えずに染めた髪の毛。
傷みまくって目も当てられない。

適当に無心で開けたピアスもよく見るとあんまりセンスがない。

俺は適当に選んだ服を着て、そのまま玄関へと歩いた。
無駄に長い廊下。
ホコリひとつ見当たらない部屋。
見慣れた景色に何も思わず進む。


「隼也様。お出かけですか?」

「うん。ちょっとでてくる。帰りはいつかわからないから待ってなくてもいいよ」

「お迎えはどうなさいますか?」

「あぁ、いい。タクシーでも使うからさ」


新入りだろうか。
俺を見て、「わかりました」とお行儀よく伝える姿に、なにかイタズラをしたくなる。
可愛い男の子だ。
年は自分より少し上か、同じぐらいだろうか。


「ねぇ、君。名前は?」

「え?」

「名前。」

「あぁいえ、伝える名前など」

「俺が呼びたいから聞いてるんだよ。教えて、偽名でもいいからさ」


おどおどとし出すその姿に思わずふふふ、と笑ってしまう。
するとその男の子は、「あぁ、えぇと」とキョロキョロし始めた。
あぁ、困ってる困ってる。


「ちょっと!!!ぼっちゃん?!」

「ぎぇっ!!」


そう思った矢先、キンキンと耳に響く声が聞こえて、俺の体は跳ね上がる。
急いでその男の子の奥を見れば、俺の世話係の琴音さんが走ってきていた。
まずい!!
このまま見つかればお説教だ。


「隼也様?」

「名前は今度でいいから聞かせてね。やめたりしたらダメだよ。俺君と仲良くなりたいから!!迎えはいらない。いいね?じゃあ!」


琴音さんのキンキンとした大声が廊下に響き渡る前に、俺は長い廊下の残り少しを走ってそのまま玄関を突っ切る。
琴音さんは俺の面倒を見てきた、育ての母みたいな人だ。
嫌いではないのだけどすごく厳しくて、好きだけどすごく鬱陶しい。

見事脱出することに成功した俺は、適当に呼んでいたタクシーに乗って夜の街に出かける。

完全に落ちてしまった日を眺めながら、俺は最近覚えたタバコの箱を取り出した。


俺の名前にある楢崎。
楢崎というのは日本では知らない人はいないというほどに、有名な名前だ。
ヤクザと絡みの薄い健全な財閥として有名な楢崎財閥は、メディアにもよく取り上げられている。

父親は楢崎財閥の会長、母親は東雲財閥の令嬢。
その間に生まれたのが、兄と俺。
現在、その兄が結婚して、その結婚を機に楢崎グループを束ねる社長になった。
順風満帆の楢崎財閥。
兄が社長になり、父が会長にスライドして、ますます楢崎財閥は安泰を極めている。
俺から見てもそう思う。

それは俺にとっていいことであって、とても喜ぶべきことなんだろうけど、ふと俺はそれを全部壊してしまいたい衝動に駆られることがある。