『帰省』

 ゴールデンウィーク合宿も終え、インターハイ予選も始まり、梟谷学園は無事に出場校2枠のうち、1枠を獲得した。こっちに来て初めての本格的な試合やったけど、やっぱり梟谷は強くて、観とって楽しかった。この調子やったらほんまにインターハイええとこまで行くんとちゃうかな。
 稲荷崎も当たり前にインターハイ出場は決めたみたいやし。赤葦くんが前に言いよったみたいに、いつかどっかで当たるんやろなぁ。今では大分梟谷の生徒て感覚が芽生えとるけど、もしほんまにアイツ等と当たった時、私はあん時言うたみたいに、梟谷の事を応援出来るやろうか。



 インターハイ出場も決まって、練習に熱を帯びだしてきた季節。夏休みの間にはグループ全体での大掛かりな合宿もある。んで、今週の土日は早速梟谷学園での合宿が開催される予定になっとう。音駒高校や、森然高校とか、宮城県から来る高校もあるらしいし、人生2回目の泊りがけの合宿やから、ほんまは参加したいんやけど……。

 そんな事を考えながら私は赤葦くんと一緒に大分歩きなれた道をいつものペースで歩いて帰りよった。

「赤葦くん。今週の土日、合宿あるやんか」
「うん、そうだね。みょうじさんからしてみたら、初めて会う高校ばっかりじゃないかな」
「ごめん、私その合宿参加出来へんねん」
「何か用事でもあるの?」
「うん……。先生には前もって言うてんねんやけどな。一応、木兎さんと赤葦くんにも伝えとこ思うて。実は、兵庫に居った時、私とお母さんとお父さんと、ばあちゃんが住んでたんよ。それで、私達だけが引っ越して、今はばあちゃん1人で暮らしてんねやけど。こないだ階段で足滑らして捻挫してしもうたみたいで……。お見舞いを含めて色々と手伝いに帰ろうか思うてな。親の都合上、今週の土日しか空いてへんくて。せやから今回の合宿は参加出来へんのよ。ごめんな」
「そっか。それは仕方無い事だから。それにしても、おばあさん心配だね」
「うん。そやけど、暫く安静してたら大丈夫て病院で言われとうみたいやし、とりあえずは安心してる」
「そう。それでもおばあさんもみょうじさんの顔久々に見れるの楽しみだろうし、宮兄弟にも久々会える良い機会だと思う」
「うん、そやな。……ほんまにごめんな? インターハイあるのに。大切な時期やのに」
「気にしないで。久々に地元の空気味わってきなよ」
「うん。ありがとう。赤葦くん」

 そうよなぁ。地元に帰って、高校に顔出さんって訳にもいかへんよなぁ。先輩に勉強のお礼も伝えてへんし……。それに、やっぱり皆に、アイツに会いたい。



「じゃあ、また明日」
「うん。みょうじさん、お休み」

 家の前で赤葦くんに手を振って別れた後、先輩に連絡を取るために携帯を出す。……き、き。……あった。もうだいぶトークも下に下がってしもうたなぁ。数ヶ月前にやり取りしたのが最後となっている画面をタップして、そこに文字を打ち込む。

―先輩、インターハイ出場おめでとうございます。今週の土日にそっちに帰る用事が出来たんで、転入試験のお礼も込めて会いたいんですけど、北先輩の予定はどんなですか?

 先輩に送る内容を何回か誤字脱字が無いか確認して送信ボタンをタップする。先輩に送る時は何でか知らんけど緊張すんねんなぁ。緑色の吹き出しの中にある自分が送った内容をもう1度だけ読み返して、携帯を閉まって家の中へと入って行く。

 手洗いを終えて、部屋着に着替え終わると同時に携帯から通知音が鳴る。手に取ると北先輩からの返事で。無意識のうちに両手で持った携帯を覗き、内容を見る。

―そっちの高校に迷惑かけるような事してへんやろうな?梟谷もインターハイ出場決めとったな。おめでとう。土曜日は練習試合で遠くに行くから、日曜日のがありがたいわ。
―そしたら、日曜日にお邪魔させて貰います。
―分かった。そういえばお前、誰にも連絡も寄越してへんらしいな。皆心配しとるで。皆にも会うて帰ってやれよ。
―すみません…。バタバタしてたんで…。ほんなら、日曜日に。

 そこまでやり取りして携帯を閉じる。そしてそのままベッドに体を預け、顔を埋める。…緊張したぁ。お土産、バナナのヤツでええかな。あ、でも治が居るからそれだけやったらあかんか。アイツ、何でも旨いって言うから、逆に何買えばええか分からんなぁ。

 考えれば考える程、心が浮き立っていくのが分かる。ほんまに、日曜日、皆に会えるんやなぁ。3ヶ月ぶりか……。あっという間やった気もするけど、向こうのヤツ等にはもっと長い事会うてへん気もするなぁ。


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