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「ねぇ、このクラスだと誰が一番恰好良いと思う?」

 入学してしばらく経って皆とも打ち解けると必ず女子の会話でこういった話題が花を咲かせる。これはもう、小学生でも中学生でも、高校生になっても変わらない。

「えー、誰だろ。やっぱ影山くん?」
「やっぱり!」

 そしてこの会話で出てくる候補として必ずと言っていい程出される名前が“影山 飛雄”という男子生徒の名前で。

「でも、影山くんは顔だけだよね」
「分かる! なんか怖いし、授業受けてる時の白目やばいよねー!」

 今では名前の後にこんな会話が付いてくるのももう聞き慣れてしまった。

「なまえは? 誰が良いと思う?」
「うーん……私も影山くんかなぁ」
「そっかー! やっぱそうだよねぇ。でもさ、顔で言えば。だよねー」
「そうだねぇ」

 そして私の感想も大体皆と同じ。顔は整ってるし、イケメンの部類で間違いないと思う。だけど、影山くんは怖い。表情があまり変わらないから、近寄りがたい。だから、影山くんは“顔でいうとクラスナンバーワン”という称号を3組の女子からはひっそりと与えられている。

「中身も入れると私は高橋くんかなー」
「わっかる! アイツ面白いもんねー!」
「でも中村も良くない?」
「あー!」

 次々と挙げられる名前にあの人はこの人の事をそう思っているんだなぁと、頭でぼんやりと思っているとチャイムが鳴りそうな時間になっていたので、慌てて自分の席へと戻る。



 席に着くと、私の右隣にはさっきまで話していた会話の登場人物が凛とした表情で座っている。その姿はとても様になっていて、やっぱり格好良い。
 そんな影山くんに私達が偉そうに評論会を開いてしまった事にちょっぴり罪悪感を覚えてしまうけど、隣の席に座る影山くんは私を気にもしていないかのように前をじっと見つめている。だけど数分後にはあの力強い目が真っ白になるのだと思うと、やっぱり純度100%で格好良いとは言えないかなぁ、なんて思う。
 そんな事を思いながら影山くんをちらりと覗き見ると、私の中で影山くんに対する疑問が1つ浮上してくる。それを確かめたい衝動に駆られ、私は意を決して影山くんへその疑問を投げてみる。

「あの……影山くん」
「……?」

 ゆっくりと視線を動かし、ネイビーアッシュの瞳が私を捕らえる。なんだ、と言いたげな瞳に気圧されそうになりながらも、頑張って言葉を続ける。

「教科書、準備しなくて良いの……?」
「……」
「…………」

 少しの間の後「……忘れた」と瞳を右下に動かしながら私の疑問に答えてくれる。私が問うまで、彼はずっと教科書の存在を忘れていたのだろうか。

「もうチャイム鳴るし、良かったら私の教科書一緒に見る?」
「……良いっスか」
「う、うん。じゃあ机寄せよっか」
「うス」

 そう言って素直に私の言葉に従って机を私側へと寄せる影山くんはなんだか可愛らしい。そんな感想をぼんやりと思っていると、先ほどよりも近い距離であの瞳が私を再び捕らえる。

「えっと……?」
「鞄、反対にかけてもらっても良いっスか」
「え? あ、ごめん」
「あざス」

 影山くんの左肩が私の右肩のすぐ横にあるという距離感が私の心臓をドキドキと打ち鳴らす。それにしても、影山くんという男子生徒は私たちが思っているよりも天然で素直で可愛らしい人なのかもしれないな、と私はこの日、影山くんに対する印象を改める事になるのだった。
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