戦闘意欲はあるハズなのに
 いつか試合をもう1度観てみたい思ってはいるけれど、何分私の本業は学生で。勉強を怠る事は出来ない。でも、今野球部は秋大で中々良いところまで行ってるらしい。この前もクリス先輩が試合観に行ったって言ってたし。青道は結構強いからなぁ。でも、今度の試験に向けて早めに準備しときたいという気持ちもあるから、とりあえずは今目の前にある理科の教科書と向き合う事にする。

「等加速度直線運動って名前からして無理……」
「えっ、お前そんなとこで躓いてんの?」

 名前を口に出すだけでクラクラしそうなる。公式っていうけど、無理。覚えらんない。そんな風に教科書に載る理解不能な記号や文章に八つ当たりをしていると頭上から聞き慣れた、からかう様な声が聞こえてくる。その言葉を聞いてキっと睨むように目線を上げるとそこには想像通りの人物がそこに居て、尚更むっとする。

「うっさい。ほっといて」

 ムカツク事に目の前の眼鏡は私なんかよりずっと頭が良い。部活してるし、私よりずっと勉強時間は短いはずなのに。頭も良くて顔も良いなんて出来すぎ。あ、でも性格の悪さでプラマイゼロか。

「あ、これが中和か」
「中和は中学生の内容だけど?」
「えっ、そうなの?」
「え、お前まじでそのレベル……?」

 うわ、なんか今度は心配するような視線送られたんですけど。ムカツクなぁ。

「ん? てか、お前ここ、間違ってるぞ?」
「えっ」
「この場合はこの公式使うから、この数字をここに代入して――……」

 御幸の指示通りに問題を解いていくと悔しいくらいに分かり易くて。なんか悩んでた事がバカらしいくらいするっと解けてしまった。何でも出来るのか、コイツは。

「すっごい……。分かり易い……」
「だろ? 俺って凄いからな〜」
「そういう事自分で言わなきゃ、だけどね。でも、おかげで助かった。……ありがと」
「……へぇ。みょうじもちゃんと感謝の気持ち持ってたんだな」

 人の神経逆撫でする事も出来るんだよね、御幸くんって人は。ほんと凄い。

「アンタのそういう所、尊敬するわ」
「はっはっはっ、そりゃどうも」

 私の放つ批判を事も無げに受けてみせる御幸には敵いそうもない気がしてくる。こいつに勝てる所が私にはあるのだろうか。
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