色んな側面を持ったあの男子
 御幸に対する怒りに任せてあれもこれもと手を出したおやつに今更ながらやらかしたと思う。でも良い。このおやつと一緒に怒りも食べてしまおう。そんな事やってるから太るんだ。やっぱり御幸のせいじゃないか。慰謝料ものだ。

「そんなに沢山おやつ持って、どうしたんだ?」
「クリス先輩!」

 そんな事を思いながら中庭を歩いていると、中・高校一緒であるクリス先輩と出くわす。

「あっ、クリス先輩も良かったらおやつ食べますか?勢いに任せて買ったは良いけど、やっぱりさすがにこれ全部食べたら太っちゃいますんで」

 チョコレートを1つ差し出すと「じゃあ、ありがたく」と受け取って、ベンチに座って美味しそうに食べだす先輩の横に腰掛ける。先輩、美味しそうに食べるなぁ。可愛いなぁ。

「みょうじ、何か失礼な事考えていないか……?」
「えっ!? そんな! 可愛いなぁって思ってただけですよ! てか、クリス先輩は今って部活に顔出したりしてるんですか?」
「最近は減ったな。少し前まで1年ピッチャーを教えていたが」
「あっ、沢村くんですか? あの子、元気良いですよねー! クリス先輩に教えてもらえるなんて、ラッキーですね」
「まぁ、初めの頃は色々あったが。今では可愛い後輩だ。アイツが少し悩んでいた様だから、最後に助ける事が出来ればと思って顔を出してからは、部活には行っていないな」

 アイツの様子も気になるから今度時間がある時に行こうと思う、と穏やかに話すクリス先輩からは優しさしか感じない。御幸も同じキャッチャーならクリス先輩くらい性格が優しければ良いのに。

「クリス先輩とあいつってポジション同じなのに、なんでこうも性格が違うんでしょうね?」
「アイツ……? あぁ、御幸の事か」
「そうですよ! アイツ、さっき私の顔見るなりなんて言ったと思います!? “お前、太った?”ですからね!? 顔なんてニタァってさせて! 普通、人が3キロ太ったからって、口に出して指摘しませんよね!? 気にしてるのに!」
「3キロ太ったようには見えないぞ?」
「……あ! 今言ったのナシ!! 忘れて下さい!……あああもう! 御幸のせいでロクな事ない!」
「まぁそう言ってやるな。アイツはアイツなりに頑張ってるんだ」
「どこを!」
「それは1度、アイツが試合に出てる姿を見てみると良い」
「まぁ……今度。……時間があれば」

 クリス先輩は何であんな可愛くない後輩の事をそんな風に言えるんだろう。クリス先輩が優しいから? それとも、アイツがそんな事を言わせるくらい、本当に頑張ってるから? それを確かめる為にもまたいつか試合観に行ってみたいなぁ、と私が差し出したもう1つのお菓子を美味しそうに頬張るクリス先輩の横で思った。
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