Winner is...
 お昼休み。学校から少し離れた場所にある野球部の寮へと足を踏み入れる。本当は部員以外立ち入り禁止なんだけど、どうしても御幸に会いたくて、こっそりと訪れたそこは普段からは想像がつかない程静かで。それが秘密基地に入りこんだようなワクワク感を呼ぶ。

「おい」
「ひっ!」

 そんな珍しさからキョロキョロとし過ぎて、人に見つかってしまう。

「えみょうじ? なんでここに?」

 私に声をかけた人物は私が探していた人で、その事にホッとすると同時に心臓のバクバクを抑える為に胸を撫でる。

「御幸……、病院は?」
「あぁ、さっき帰ってきた所。てか、どうしたんだ? こんな所まで」
「あ、えっと……。あの、ね」
「あっ待った。もし人に見つかったらめんどくせーから、ちょいこっち」

 そう言って誘導する御幸の後ろを大人しく着いていくと連れてこられたのは屋内練習所と寮の間にある小さな隙間で。

 そこに置いてある自販機でブラックコーヒーとカフェラテを買って、カフェラテの方を差し出してくれる。

「ありがと……」
「まさかここでみょうじと会う事があるとはなぁ。みょうじの行動力に驚き」
「自分でも寮に忍び込むなんて思いもしなかったよ」
「それで? どうした? って言っても昨日のアレの件、だよな?」

 御幸もさすがに察してるらしい。隣で頭を掻きながら「あー」とか「うーん」とか唸っている。

「返事聞くの、やっぱ怖ぇなー。告んのもビビッて去り際に言っちまうし。こういうとこ、ほんとゾノみたいにならねぇといけねぇよなぁ」

ばつが悪いように喋る御幸の目をじっと見つめて「私も、」と告げる。

「えっ?」
「私も、将来有望な人と結婚したいとか言ってるクセに誰にも行動する気になれなくて。倉持から“御幸は?”って言われても絶対嫌だって言い続けてた。だって、御幸って性格悪いし。だけど、それと同じくらい優しさも持ってるし、周りの事考えてるし。そんな御幸の事、心のどっかでずっと凄いって思ってた。だけど、そんな御幸の事を好きになっても私なんかじゃ釣り合わないって、だから、それなら初めっから好きになんかならないって意地張ってたけど、今こうやって御幸の為なら簡単に行動してる自分を見て思う。私、はじめっから御幸に惹かれてたんだなって」

 だから、私と付き合って下さい。そう続けて言い終わると御幸ははっはっはっ、といつもの様に笑ってくれる。

「告白したの、俺なんだけどなー。ま、こんだけ熱い告白されるとどっちが告白したか分かんねぇか! みょうじ、付き合ってやるよ」
「……なんか勝ち誇った様に笑われるのムカつくんですけど」
「ははは。まぁ良いじゃん。ってかさ、お付き合いするんならさ、苗字で呼ぶのやめよーぜ! ほれ、言ってみ? 一也って。呼んでみ? 俺もなまえちゃんって呼ぶからさ! なんか付き合いたてカップルって感じがして良いじゃん!」

 つらつらと話す御幸に“うるさい!”と言いそうになるけれど、御幸の表情が凄く嬉しそうだから、私もつい笑ってしまう。

「私もう戻るけど、くれぐれも!! 無理はしない事! 分かった?」
「へいへい。俺ら結婚したら絶対尻に敷かれるな」
「けっ!? ばっかじゃないの!」
「うへへ」

 だらけた表情を浮かべる大好きな人に手を振って戻る帰り道。今さっきまで会っていたのに、もう恋しくなって足を止めて振り返ると御幸はまだそこに居て。嫌いだと言い続けてきたけれど、私は随分前からアイツの事好きだったんだと思う。惚れたが負けとは良く言ったものだ。そんな事を私と目が合うと、にっこりと笑ってもう1度手を振ってくれる御幸を見て思う。そんな御幸の笑顔に負けない様に、私もにっこりと笑い返してみる。好きだよ、御幸。私の気持ちが、しっかり御幸に届くように。
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