青い恋がしたい

「はぁ〜……面白かった……」
「それ妹の漫画だろ? 読むのは良いけどなんで俺の部屋なんだよ」
「大地が勉強してる時の作業音、ちょうど良い雑音で集中出来るんだよね」
「ほぉ。俺は雑音ですか。勉強してる人間に向かってこれ以上ない失礼だな」
「ねぇ、大地。分かる? この質の良い読み物を終えたあとの読了感」
「いやまぁ分かるけども。少なくともその余韻に貢献した俺に対する態度としてはどうなのよ」
「こういう恋愛物読んだあとってさ、自分自身も恋したくなるんだよねぇ」
「さっきから会話のキャッチボールの出来てなさが凄まじいな。俺は壁なのか?」
「どう? 大地もなんない?」
「俺あんま漫画は読まないからなぁ」
「はぁ〜……恋したい。……って何そのビミョウな顔」
「ん? いや、別に」
「恋愛する余裕あんのかよって顔? それとも安直だな〜って顔? うるっっさいですよ」
「勝手にキレるなよ。勉強の邪魔すんなら別の部屋行ってくれ」
「分かった分かった。大人しく次の漫画読むからもう少し入り浸らせて」
「だからなんで俺の部屋で読むんだよ」
「だから〜。大地の奏でる音がちょうど良いんだってば」
「俺の奏でる音」
「ちょっと格好良さげに言ってみた」
「だいぶだろ」
「ほらほら。早く、勉強に戻りな」
「はいはい」
「……あ、そういえばさ。スガから言われたんだけど」
「戻らせてはくれねぇのか」
「あごめん」
「良いよ。2時間ぶっ続けだったし、ちょっと休憩してぇ」
「私と大地って、恋愛漫画だったら後々付き合う関係性らしいよ」
「……は?」
「幼馴染で、こうやって互いの領域? に元から入ってる関係性、恋愛に発展しやすいんだってさ」
「いや、でも……」
「私もそれ聞いて“確かに〜”って思ってさ」
「確かに、なのか?」
「あ、“私は”だけどね? 大地は安直だって思うよね」
「いや……別に……」
「……アハハ。ごめん、なんでもない。この話終わり!」
「……なまえ。会話勝手に終わらせるのナシ」
「……無理。ちょっと変な感じで勇気出しちゃった。ムリ」
「なまえ、恋がしたいって言ったよな?」
「…………言った」
「それって、“誰でも良いからとにかく恋したい”とか、そういう意味合いで言ってるわけじゃないってことで良いのか?」
「あ、当たり前じゃん! 誰でも良いわけない!」
「なまえ、顔見せて」
「無理。クッションが張り付いて取れない」
「じゃあ、そのままで良いから聞いて」
「……うん」
「なまえが“恋したい”って言う度、俺は呆れてたわけじゃない」
「うん、」
「焦ってた」
「……え?」
「コラ。クッションから顔離さない」
「へぶっ」
「なまえがそういう気持ちになって、俺じゃない誰かとそういう関係になったらどうしようって。焦ってた」
「……大地、顔見せて」
「無理。見せらんねぇ」
「自分は顔見せてって言ったくせに」
「今は見られたくない。し、見れない」
「顔真っ赤なの?」
「……多分」
「……ふふっ。大丈夫だよ。そういう気分になっても、その相手はもう決まってるから」
「でも俺、この先しばらく待たせちまうかもだぞ」
「良いよ。待てる。だからまずは春高に全力を注いでください」
「……あぁ」
「ねぇ、そろそろ窒息しそう」
「アッ、すまん!」
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