You are my Queen

「疲れたぁ〜!!」

 結んでいた髪をほどき解放感を味わう。今日の仕事はここまで。そう区切りをつけ体を後ろに倒し、畳の匂いを鼻から吸い込む。畳に擦れてゴワゴワする髪の毛の感触を嫌い体を起こしたところで「お疲れ様でした」と労いの声が背中から聞こえてきた。

「長谷部、髪といて〜」
「かしこまりました」
「ごめんね、こんなだらしない主で」
「いえ。主は決してだらしなくなどはありません」

 素敵な女性ですよ――背中から聞こえる声はとても優しい。私をこうやって褒めてくれるのは、長らく近侍を務めてくれている長谷部だけだ。髪の毛に触れる長谷部の手の優しさを味わっていると「他に何か指示はございますか? なんなりとお申しつけください」と長谷部から問われた。
 長谷部はいつだって私の願いや指示をスマートにこなしてくれる。それはとてもありがたいことだし、頼りにもなる。だけど、時々私の中に悪戯な心が現れて「じゃあ私の好きな所、私が良いって言うまで言って」なんて無茶ぶりをしてみたくなってしまう。

「か、かしこまりました」
「ふふっ。本当に言える〜?」
「もちろんです。まずはこの本丸の主として立派にそのお役目を務められているところ。そして指示を出す際の迅速さや的確さ、あと俺ら刀剣男士を思いやるお心を持たれているところ、そして「ねぇ長谷部。長谷部は審神者としての私だけが好きなの?」……そ、れは」

 後ろに居る長谷部にもたれ掛かる。突然の体重移動にも関わらず長谷部はしっかりとその腕で私を抱き締め、「俺にだけ見せるこのようなお姿も……とても愛らしいです」と目を閉じ少し恥ずかしそうに告げてくれる長谷部。長谷部はいつだって私を受け入れてくれる。さすがに意地悪過ぎるかな? と思う要望も、困りながらもどうにかしようと奮闘したり、私の身を1番に考えて守ってくれたりする姿は近侍というより「長谷部はナイトみたいだね」――そう、騎士だ。

「ないと、ですか」
「うん。私を守ってくれる、騎士」
「なるほど。では主はお姫様というわけですね」
「……うーん、ごめん。私は姫っぽくないか」

 長谷部を騎士というのであれば、確かに私は姫という立場になる。それはちょっと頷けない。意図せず出来上がった関係図を恥ずかしく思いながら体を起き上がらせようとすると、それを長谷部の腕から阻まれ先程よりも距離がぐっと縮まる。ふっと顔を上げた先に居る長谷部を見つめれば、「俺にとって主はお姫様ですよ」と柔らかい表情を浮かべながら囁かれた。

「私がシワシワのおばあちゃんになっても?」
「もちろんです」
「そっかぁ。ふふっ。それは嬉しいな」
「主がどのようなお姿になったとしても。俺は主にこの先一生仕えることを誓いましょう」
「じゃあ私は一生長谷部と一緒に居られるんだね」
「はい。主が俺を手放さない限り。俺は主のお傍に」
「私が長谷部を手放すわけないでしょ?」
「……はい。存じております」

 では、私の愛おしい刀剣男士よ。永遠に私に仕えていただきましょう。
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