もし、何も始まっていない時に戻れるとしたら。
ぼんやりと霞む頭に、ふとそんな考えがよぎる。そしてその考えはすぐに振り払われ、霞の中に消えてゆく。
もしここで“今のようにならない未来”を選べているのならば、とっくの昔にそうなっている。いつの自分もその選択を選べなかったから、隣に生まれたままの姿で、その頬に涙跡を残し眠るなまえが居るのだ。
嫌いになった? とも、嫌いにならないでとも。もはや今の自分には尋ねたり縋ったりする臆病さもない。こんな自分になったのも、こんな関係性になったのも。全部、自分自身が望み選んだこと。
たとえ泣いてばかりのなまえでも。泣かせてばかりの自分でも。なまえの隣に居られるのならばそれで良い。この地獄が良い。
「ずっと一緒に居ろうな」
この地獄はとても居心地が悪くて、どこよりも幸せな場所なのだから。