恋の駒落ち

「……あっ! ちょ、待ってください!」
「ふっ。甘いな」
「んも〜っ! ずるい!」
「対局にずるいも何もない。ほら、なまえも早く打て」
「んーー、じゃあ……ここ?」
「ふっ、」

 暇だからと始まったなまえと鯉登による将棋。「月島もそこで観ていろ」という理不尽な上官命令で付き合わさせられていた月島は、盤面を見ながらふと思う。どうしてこの勝負に勝敗が付かないのか――。

「むっ?」
「なんですか月島軍曹殿」
「……いや、なんでもない」

 違和感の出どころは鯉登の指す手にある。お世辞にもうまいとは言えないなまえの手に対し、鯉登はいつまで経っても決定打を打とうとしない。今の手もそうだ。もはやいつ王手をかけてもおかしくない戦況だというのに。鯉登の性格を考えれば、直ぐにでも勝敗を着けたがるはず。不審に思った月島は、上官の様子をそれとなく盗み見る。

「おぉ。なまえにしては良い手を打つではないか」
「えっほんとですか?」
「まぁまだ私には遠く及ばんがな」
「くぅ……、」

 いつまで経っても王手を打てない鯉登を見て、月島は人知れず戦況を把握する。この勝負、どうやら王手をかけられているのは鯉登の方らしい。
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