縋る

「月島さんの下のお名前、基というんですね」
「はい」
「基本や基礎の字で“はじめ”。良い名前ですね。月島さんにピッタリ」
「……久々に下の名を呼ばれた気がします」
「確かに、軍に居ては下の名前で呼ばれる機会もそうないですよね」
「俺は……いえ、なんでもありません」

 月島さんの視線が私の目ではなく髪を捉える。そのことを不思議に思って髪を手で押さえてみても、月島さんの瞳が髪の毛から離れることはない。

「月島さん?」
「……なまえさんの髪は真っ直ぐで、とても綺麗ですね」
「……えっ」

 驚いた。まさか月島さんの口から何かを“綺麗だ”と褒める言葉が出るだなんて思ってもいなかったから。でも、私の胸はきゅんとした気持ちとはまた違う締め付けを覚えた。月島さんの放つ“綺麗”が、私じゃない誰かに向けられていると気付いてしまったから。月島さんはきっと、何かに絡めつけられ、囚われているのだ。
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