少女団恋物語

「えっ、恋のお話? 聞かせて……」

 物置でブヒィッと泣くゲンジロちゃんをみんなで励ます休憩時間。その間に交わしていた雑談で、少女団の1人が今日の公演が終わったら長吉さんに想いを告げるらしいことを知った。その話に久々に胸が高鳴る予感がして、聞かせてと願ったのが間違いだった。そうして始まった恋バナのうち、ゲンジロちゃんとインカラマッの話で盛り上がれたのも束の間。みんなの視線が私へと向けられた瞬間、この手の話には順番というものが存在することを思い出した。

「なまえちゃんは鯉登くんだよね?」
「エッ! ななななな、そ、そそそそんなことっ」
「だってなまえちゃん、鯉登くんの軽業見てる時うっとりしてるもーん」
「えっ、なまえ先輩……そうだったのか!」
「ちょ、ゲンジロちゃんまで……! ほんとに違うから!」

 確かに、あの軽業は見惚れるほど凄いけど。でも、あくまでも鯉登少尉は好敵手だ。負けられない相手で、決してそういうモノでは……いや、投げ接吻喰らった時はちょっとヤバかったけど。
 あわあわと言葉を返すのは、こういう場面では“肯定”と捉えられてしまう。どうにか助けを求めようと月島軍曹を見つめても、月島軍曹は少し離れた場所から1歩たりとも動かず、視線すらピクリとも動かしてはくれない。さてどうしたものかと困っていれば、「分かってないわね」と紅子先輩が溜息を吐きながら言葉を差し込んできた。

「よくあるのよ。ちょっと足が速いとか、そういう、他の人に比べてちょっぴり出来が良い人を見たら憧れちゃうってこと。みんなもあるでしょう?」
「さすがです、紅子先輩……!」

 紅子先輩の説得力のある例え話に、周囲の少女たちが「あるあるー」「確かに、よく考えたら鯉登くんって“キエェ”ばっかでうるさいよね」「分かるー。別に格好良くないよね」「ねっ、別に普通だよね」という意見に傾いてゆく。……そうだそうだ。べ、別に鯉登くんなんて、好きじゃないんだからっ。

「むっ。お前たち、一体なんの話をしているのだ?」
「別にー」

 テントから顔を覗かせた鯉登少尉に少女たちが向ける態度は冷ややかだ。その中にはさっきまで投げ接吻にきゃあきゃあはしゃいでいた子も居る。女というのは恐ろしい。かくいう私も、ハテナを浮かべる鯉登少尉からぷいっと顔を背け、「ゲンジロちゃん、行こっ」とその手を引く。そうして「月島軍曹も! フミエ先生から怒られるよっ」と声を投げかければ、月島軍曹も真顔のまま足を踏み出した。そうして取り残された鯉登少尉はただ1人状況が分かっていないのか、「月島ァ! おい、月島ァ! 月島ァ?」と叫び続けている。……やっぱり、鯉登くんはうるさい。
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