旅立つ人よ

 1つ上のその先輩は、いつだってずっと前を向いていた。例え理想と現実がかけ離れてしまったとしても、例え環境が目まぐるしく変わってしまったとしても。どんな時もただひたすらに前を向き、“勝利”を信じるその姿はいつだって格好良かった。

 彼の背中を見ていると、勝ち負けすらどこか遠くに感じることさえあった。それくらい、彼の背中は強くて逞しかった。
 何もかもを背負い、なお強くあろうとする彼は直視できないくらいまばゆくて。結局ただの1度も言葉を交わすことは叶わなかったけれど、それでも。長い人生のうち、2年間だけでも同じ場所に居られたことは私の宝物で、一生忘れることの出来ない思い出。

「したっっ」

 彼が全力を注いだバレー。その仲間たちと別れの言葉を交わす姿を遠くから見守り、同じように旅立つ仲間と肩を組んで歩くその背中を深く深く刻み込む。
 今日も彼の背中は変わらず強くて逞しい。その背中に「お元気で」とそっと呟き、その背中が見えなくなった頃、ようやく「さようなら」と別れを告げた。
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