割を食った澤村

「コラコラ〜。まーたサームラさんとこ行ってる〜」
「だって澤村くん滅多にこっち来ないじゃん」
「すまん。俺らがもうちょっと近くに住んでたらもっと合宿出来るんだけど」
「引っ越さない?」
「ん〜。宮城に居る弟と妹、あとキンタロウを置いては来れねぇし」
「そんなの、澤村家で引っ越せば解決じゃん!」
「みょうじさーん。暴論が過ぎますよ〜」
「うるさい黒尾はあっち行ってて」
「んまっ! なんて言葉遣い! わたくしはそんな言葉遣い教えたつもりないですわよ」
「……澤村くん。ウチの部長大丈夫かな?」
「だいじょばねぇかも」
「まぁいっか」
「だな」
「おいおいおい。迎えに来た部長に対してなんだその仕打ちは」
「私別にマネじゃないし。ただのお手伝いなので、黒尾の言うことを聞く必要はありません」
「反抗期かこのヤロウ。良いからさっさと戻れ。サームラさん次試合やんだから」
「頑張ってね、応援してる」
「おう、さんきゅ」
「みょうじ、悪ぃんだけどドリンクなくなりそうなんだわ。補充頼めるか」
「うん、分かった。じゃあね、澤村くん」
「おー」

「ったく。ウチのがどうもすみませんね」
「いえいえ。東京の妹って感じがする」
「一応俺らと同い年なんだけどな、アイツ」
「でも俺も“澤村くんってお兄ちゃんみたい”って言われたぞ」
「みょうじはひとりっ子だからなー。サームラさんの兄貴センサーに反応しやすいのかも」
「なんだ兄貴センサーって」
「なんかあんのよ、サームラさんには。“全人類の兄です”みたいなオーラが」
「全人類は言い過ぎだろ」
「いや。下手したら“父”にもなれるね。ポテンシャル感じる」
「老けてるって言われてる気がするのは、相手が黒尾だからか?」
「だとしたら理不尽じゃん」
「つーか、なんでマネにしねぇの? みょうじさん、仕事完璧だと思うけど」
「そうしたらあの子こっちに夢中で本業を疎かにしかねないから」
「あー。ウチでいう日向影山か」
「そうそう。そんな感じ。バレーのことになると途端に4歳児になんの」
「なるほど。すっげぇしっくり来た」
「でしょ? それに加えて今みたいにフラフラフラフラ。んもー、猫みてぇで大変なんですよ」
「苦労してんだな、黒尾も」
「ありがたいんだけどね。みょうじが手伝ってくれんのは」
「の割にはみょうじさんが俺のとこ来たら心配そうな顔して迎え来てるよな」
「そりゃあ、ね。変な虫付けたくないわけよ、みょうじには」
「変な虫。ほぉ?」
「んま、“サームラさんなら”とか思っちゃう俺が居たり居なかったりもするけど。やっぱダメだわ」
「お前はみょうじさんの父親か」
「大地〜。父親ではないと思うぞ〜」
「お、スガちゃん。オタクの主将、鈍すぎない?」
「それが大地」
「なるほどね」
「は? なんだよ、どういう意味だよ」
「大地はこんなんだから大丈夫だろうけど。他のヤツはどうか分かんねぇべ?」
「だよな。だから俺が目を光らせてんの」
「スガ、ちゃんと説明してくれ」
「した所で大地には関係ないから大丈夫」
「なんか納得いかねぇ」
「ま、とにかく。引退近くなったらちゃんと言うつもりです」
「おっ? 要る? 応援、要る? 祭りあげる??」
「スガちゃんホット」
「何も分かんねぇ」
「サームラさんは引き続きみょうじの父親役をよろしくお願いします」
「? おう、それは任せろ」

「ねぇちょっと黒尾! 私に仕事させといて自分はサボってんじゃん! ズルいんですけど!」
「やべ。んじゃ、今日もお手柔らかに頼みます」

「なんだったんだ一体」
「俺はそういう大地の鈍いところが良いと思ってる」
「俺だけが分かってない感じか? コレ」
「みょうじさんも分かってないと思う」
「そうなのか」
「うん。でもみょうじさんはいずれ分かるはず」
「なんだよ、俺だけ損した感じじゃねぇか」
「まぁまぁ。どうどう」
「なんでこんな悔しい気持ちになんねぇといけねぇんだ」
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