いつか来るさようなら

「いーーやァ〜〜!!」

 ウォーターセブンに住まう人々はきっと私の叫び声を聞いてまたか、と思っているのだろう。一瞬空を見上げああ、という様子で顔を戻す住民たちを恨めしく思う暇もなく私の体は今日も町を舞う。

「ほい、到着」
「ありがとうございま……せん」
「ははは。なんじゃ、わしは礼をもらえんのか」
「だって……毎回毎回あんなスピードで跳ばれたらさすがに心臓に悪い」
「慣れじゃ、慣れ」

 どうして私に慣れる必要があるんだと言いたい。けれどカクに町中で拾い上げてもらうおかげで遅刻せずに済んでいるのも事実なので、大きくは出られない。せめてもう少しだけゆっくり跳んでくれたら文句なしなのに。という愚痴を以前パウリーさんに溢したら、「早く起きるっつう選択肢はねェのか」なんて呆れられた。あのお金にだらしないパウリーさんからこんな真っ当なことを言われるなんてと驚いたら目を吊り上げられたのも記憶に新しい。とはいえ結局私は今日もカクに運ばれ無事に出勤することが出来た。あとでバナナでも差し入れようと思いながら「まァ、ありがと」と今度こそ礼を言えばカクは嬉しそうに笑う。

「まァわしが居る間はいつでも運んじゃるわい」
「……? なんか“いつか居なくなる”みたいな口ぶりじゃない?」
「そうか? まァ、人間に“永遠”なんてもんはないんじゃ」
「そうだね、確かに」

 そう言ってふらりと立ち去るカクの言葉は、何か大事な言葉を飲み込んでいるような気がしてならなかった。
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