「……見ました?」
「まァ、見た」
違います、と言おうとして口を噤む。“違う”とは何を示す言い訳なのか。自分でもよく分からなくてウッと詰まっている私に、キャプテンは視線を逸らす。キャプテンは完全に被害者だ。非は私にある。共有スペースに干す衣服の中に自分の下着を混ぜてしまったのは完璧に私の落ち度だ。しかもよりにもよってイッカクとノリで買った中々に攻めたヤツ。それを紛れ込ませたのは私だし、キャプテンはただ仕事を手伝おうと洗濯済みの衣服に手を伸ばしただけ。下手したら痴女と言われかねない沙汰だ。
「えーっとですね、コレはその……なんていうか……。ど、どうですかね?」
間を埋める為に放った言葉の恐ろしさに、口をパックリと開ける。咄嗟になんてことを言っているのだ、私は。こんなの正真正銘の痴女だ。どうもこうもないだろう。
「正直、」
答えるの!? そんな真顔で!?
静かに口を開くキャプテン。その表情で言おうとしている内容が下着についてだなんて、遠くから見た人は露ほども思わないだろう。対する私の表情も固唾を飲むものだから余計に。
「なまえはこういうのを着るのかと意外だった」
「アッ」
そうか。別に下着に名前を書いてるわけじゃないのだ。自分のブラをキャプテンが掴んで固まっているのを見て思わず奪い取ってしまったけれど、よくよく考えてみたらしらばっくれれば良かったのだ。それこそイッカクには申し訳ないけど「イッカクのですかね〜?」と嘯けば良かった。そう言えばキャプテンだって納得したかもしれない。
「なまえが着けてるとこ見れる野郎が少し羨ましい」
「へっ?」
「そういう男、居ねェのか?」
「居ないです。船乗りだし」
「ま、そりゃそうだ」
1つの場所に留まることのない放浪の身。それが気楽だし後腐れないと思っている。けれどキャプテンが続けた「じゃ、おれが見ても良いか?」という誘い文句はそれらの思考を怪しく塗りつぶしてみるには充分だった。